新入社員!パクラ君! その1 | やわらかな光 ~ヤングパーソンクラブの部屋~

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ヤングパーソンクラブ a.k.a. ヤンパクラ

満員の地下鉄から降りて、2番出口に向かう。汗ばむジャケットのボタンを外し、階段を駆け上がる。駅から出て左折、200メートル直進、4つ目の信号を右折、松屋の脇を抜けたところが今日の目的地だ。
何度も何度もグーグルマップで確認したから大丈夫、アイホンの充電もまだある、ナビもルート通りと背中を押してくれている。時間もまだ十分に余裕がある。

俺は今年の春大学を卒業したばかり。たまたま先輩の誘いがあって、たまたま受けた会社に内定をもらって、そのまま就職してしまった。院に進むのが面倒だったというのもあるけれど、それよりとっとと働いて自分の金で生活する方が性に合っている気がしたんだ。

リクルートスーツを着た男女が何人か、仲良さげに歩いている。妙にあか抜けているというか、単純に華がある。こっちの方向には会社はあんまりないから、ひょっとしたら同期かもしれない。こいつら、入社前から知り合いだなんて、なんてコミュニケーション能力だ。こんな優秀そうな奴らと一緒に働くなんて、気が重い。

案内に書かれていた会社のあるビルに到着、思ったよりこぢんまりとしている。というかパンフレットに載っている高層ビルとは全然違う。2階建てで、アパートくらいの大きさしかない。外壁はカビだらけで、ところどころヒビが入っている。
ちなみに、何人かいた連中は隣のビルの広告代理店に行ったみたいだ。わが社のビルを隣のビルと見比べると相当見劣りしてしまう。新入社員の質が違うのも頷けてしまう。

なんとなく気のりがしないままシャッター脇のガラス扉を開けると、狭いスペースに階段がある。階段しかない。1階は倉庫だろうか。「火の用心」と書かれたポスターをわき目に階段を上る。会議室は2階に上がって正面にあるらしい。

踊り場に少年がいる。しゃがみこんで階段に絵を描いている。何でこんなところに?社員の子供か?こういう時って敬語なのか?てか誰だこいつ?

「おはようございます。」

俺はできるだけ明るい声でそう言った。

「!!!!!」


少年はパクラ君と言うそうで、今年入社した二人の新入社員のうちの一人らしい。少し早めに到着したので会議室に荷物を置いて、階段に落書きをしていたそうだ。

現在時刻は8時45分。9時からオリエンテーションが始まる。

俺は何も考えず、2階の会議室に行くことにした。