その少年は、パクラ君と言うそうだ。
地元の人間らしく、初詣客からもしきりに挨拶されている。ちょっとした有名人なのだろうか、見たところただの少年なのだけれど。
強運の持ち主から運気を分けてもらおうと、俺はそっと近づいて甘酒を差し出した。
「すごい運が強いんだね、これ、よかったら飲んでよ」
俺はパクラ君と境内のベンチに腰掛けた。親子に見えるんだろうか。
「!!!!」
「あ、そうだよ。緑町のシェアハウスに住んでるんだ。」
「!!」
「なんでって、そりゃ家賃が安いし、色んな人に会えるからさ、毎日刺激的でいいよ。」
「!!」
「いや、そりゃそうだけど・・・毎日同じ会社で同じ人間と顔を突き合わせるより絶対いいよ。自分が本当にやりたいことを、仲間たちと見つける場所、そんな感じかな。起業してベンツに乗ってる子もいるよ!」
「!!!」
「えっ・・・いや、まだだけど。そうだな・・・大体みんな1年、長くても2年かな?俺は・・・今年で5年だよ」
「!!」
「バイトだよ。じっくり自分のやりたいことを見極めるんだ。なんとなく就職してなんとなく働き続けるっていうのは俺のガラじゃないからね。根が自由人なのさ。」
「!!」
「もらってないよ!携帯代も自分で払ってるし。ちゃんと自立はしてるよ」
「!!」
「それは出してもらったけど・・・けど一応就活はしてる。」
「!!!!」
「えっ!?も、もう連絡は取ってないからそんなこと頼めないし・・・」
「!!!!!」
「・・・いや、そうだけど・・・なんで初対面の君にそこまで言われなきゃいけないのさ。」
「!!!!!」
「・・・・」
俺は勢いよく立ち上がると、後ろを振り返りもせず駆け出した。
人と人と、人の間を吹き抜ける風のように、俺は走った、つもりだった。
実際には一歩ごとに胸は苦しく、足は重くなっていった。境内を出てすぐ、仮設トイレの横で俺は止まった、いや、走るのを諦めた。
わき腹が痛い、息ができない、膝が痛い。正月の神社で息を切らしている男に注がれる視線を気にすることもできず、俺はその場に座り込んだ。
いったい何なんだあいつは、なんで俺がそんなこと言われなきゃならないんだ。
俺だって別に毎日何もせずに過ごしてきたわけじゃない!!来るべき日のために、ずっと準備してきたんだ!自己啓発セミナーにも参加してきた!!一人でアメリカ旅行もしたし、ケンジが就職で悩んでいる時も相談に乗ったし(結局ケンジは弁護士になれた!)、それに、就職部の人にも面接受けが良いから仕事はすぐに決まるよって言われたし、それに、それに・・・・
「!!!」
目の前にパクラ君いた。逆行で表情は全く読み取れなかったけれど、俺はこの場で泣き出したい気持ちになった。