がんばれ!パクラ君!2 | やわらかな光 ~ヤングパーソンクラブの部屋~

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おみくじは大吉だった。

去年も大吉。去年一年のよかったことと言えば発泡酒の抽選でビールが当たったことと、今の会社に就職が決まったことぐらいだ。とは言えこんな辛気くさい世の中で、抽選に当たって(しかも町内会の集まりで配った発泡酒から剥がしたシールで応募したから元手は切手代だけ!)仕事が決まるなんて、ありがたいと言えばありがたい話ではある。今年も期待せずに期待しておこう。

境内を見回すと、楽しそうに手をつないで歩くアベック、幸せそうに子供を抱く夫婦、携帯電話片手におおきな声でわめき散らすおじさん、、、、色んな人が視界に入った。若い頃はその一人一人にいらいらしたり、うらやましがったりと忙しかったが、30歳を境に、いや、あの出来事をきっかけにそんな気持ちがなくなった。刺がなくなったと言えば聞こえがいいが、色んな事に無関心になってしまったのかもしれない。
少しでも正月気分を味わおうと、甘酒を買った。出店で売っているとは思えないほど麹の香りが豊かで、生姜がぴりりと効いた本格的な甘酒だった。正月の神社で一人甘酒を飲む自分に少し照れた俺は、ポケットから煙草を取り出して火を点けた。煙草は別に好きなわけじゃない。ただ、手持ち無沙汰を解消するには最高に便利な道具だと思った。

「帰ってスカパーでも見るか」

コートの襟を正して俺は歩き出した。途中、屋台に凄い人だかりが出来ているのが見えた。
正月番組のレポータでも来ているのかな、と思って覗くと、テキやのおじさんが大きな声でわめいていた。

「兄ちゃん、勘弁してくれよ、もう5つめじゃないか!!ファミコンも、ゲームボーイももうなくなっちゃったし・・・」
「!!!!」
「いや、そりゃそうだけどさ、うちだって商売だから当たればちゃんと商品は差し上げますよ・・・これでほんとに最後にしてくださいよ・・・当たりー!!!当たり!!1
当の19インチテレビデオ!!大当たりだよ、もってけちくしょう!」
「!!!!」


「あの子、凄いわね。くじ引き、全部当てちゃった」
「当て物屋さんも、ちゃんと当たりが入ってるのね」
「今年の運を全部使い果たしちゃいそうだね!」


どうもくじ引きで当たりを弾きまくった人がいるらしい。新年早々羨ましい話だ。まぁ、どうせ、サクラかなんかじゃないの・・・

「!!!」
「えー、ほんと!?これ、くれるのお兄ちゃん!?」
「!!」
「まじっすか?俺、ゲームボーイ欲しかったんですよ、ありがとうございます!」
「!!!!!」
「私にも・・・?ありがとうございます、息子にプレゼントができました、本当にありがとうございます。」
「!!」

おいおい、せっかく当たったのに全部あげちゃうのかよ。そりゃ周りは喜ぶだろうけどさ。あのおばさんなんて、息子へのプレゼントが出来たって泣い喜んでるよ。あら、泣き出した。なんか見てて俺も嬉しくなってきちゃったよ。

「!!!」
「わかったよ、また来年もちゃんと店出すから!次は外ればっかり引かせるからな!」
「!!!」

あらかた賞品を配り終わると、その少年は境内の外に向かって歩き出した。

「今時珍しい、あんな人がいるんだ。しかも若い人で。俺も、ちょっとでも人のためになることしなきゃな・・・いい初詣だったなぁ。」

そう思って何となく手を合わせた瞬間、その少年がこっちを振り向いた。

「!!!!」


2016年1月1日、俺はパクラ君という少年に出会った。