10月3日 | やわらかな光 ~ヤングパーソンクラブの部屋~

やわらかな光 ~ヤングパーソンクラブの部屋~

ヤングパーソンクラブ a.k.a. ヤンパクラ

一昨日からDDの愛犬、ココアを預かっている。
もちろんDDは本名ではなく、子供染みたあだ名である。
DDは21才の女、私とはいわゆる彼氏彼女という関係ではない。しかし出会ってからの約三ヶ月、週に一度、それも決まって私の仕事が休みの火曜日に秋田町のバーで逢瀬を愉しむ関係である。
バーでは仕事の話、本の話(DDは江國香織が好きだそうだ)、RADWINPSの話、愛犬ココアの話など、ごくごく他愛もない話をしている。
もちろん私は、この15歳年の離れた女性を女としてみていないわけはなく、時折彼女が見せる仕草に胸を掻き毟る様な慟哭を覚えることすらある。一般男性として至極当然の欲求を培養しつつも、私はこの二時間ばかりの関係に十分満足していた。
そんなある日、卒業旅行までの間、ココアを預かって欲しいとDDから電話があったのである。
十分な下心と、僅かばかりの動物愛護の精神をもって、私はメルセデスでDDが住むマンションへ向かった。徳島にしては珍しい50階だての超高層マンション、の隣りに佇む流行りのメゾネット住宅から降りてきたDDは、茶色の生地に黄土色でアルファベットが大量に描かれた、趣味の悪いボストンバッグとドッグケースを抱えていた。
空港まで送る途中、同行する友人の話や就職活動の話、パリでは買い物をするなどという話をしていたが、ほとんど覚えていない。明日から始まる、慣れない犬との生活に私はすっかり怯え切っていたからである。
LASS1522便は定刻通り徳島阿波踊り空港を離陸しDDを空の彼方へ連れていった。
私はメルセデスに戻り、助手席のココアに話かけた。

これから一週間、よろしくな。

ココアはその大きな瞳を潤ませ、こちらを見ていた。