「ここは私たちのいない場所」白石一文 著
読了しました。
主人公は、5才の時3才の妹を喪くした
経験がその後の人生に色濃く影響している
食品メーカー役員。
部下の不祥事にまつわり、その妻の策略に
はまり、自身の決断により退職する。
退職後の生活と思考を描いた作品です。
するりと読めました。
何というか、出来事に対し平坦に対応して
いるのに、らしさが出ていて、その様が
好ましい、という感じでしょうか。
印象に残った所を4つ。
●心が参った時の対処について
「誰かに、何かに頼るのではなく、過去の
元気だった時の自分に治してもらう。
その時に好きだった音楽を聴く、など」
●死期が近づいた30年近く会っていなかった
大学時代の親友への見舞いを止めることに
ついて
「人間は最後まで前を向いていた方がいい。
振り返ると後悔や懺悔が我々を飲み込まんと
待ち構えている。だが、死が間近に迫った
場所で、来し方を嘆いたりするほど無意味な
ことはない。善きことも悪しきことも全て
死によって精算されてしまうから」
●そしてその死について
「人の死は誰にも知らせくて良いと思う。
ある日どこかへ行ってしまい、文字通り
いなくなっただけ、の諦めや曖昧さが
人を死の恐怖から解放させるのではないか」
●未婚で子供を持たないことについて
「誰にも依存しない人間になるのを目標に
生きてきた。人を助けるという行為も
一時的なものでなければ結果的に相手に依存
する事につながる。
人と共に生きても、人間は決して強くは
なれない」
食事の描写がさりげなくいい感じで、
鰻重と小籠包が食べたくなった私でした