『かっぱの妖怪べりまっち』190話「頽馬(たいば)」 | おばけのブログだってね、

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2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

 

大津のじゃじゃ馬娘「頽馬」(たいば)の話

滋賀県大津市で馬が急死するという事件が立て続けに起こった。

犯人は滋賀県にライブ遠征してくる妖怪バンドで、ボーカルのかっぱが馬の尻こだまを抜いたに違いないという噂が立った。

倒れた馬のお尻には大きな穴が空いているというから、確かに疑われても仕方ない。

 

かっぱは大津市に向かった。

大津カウボーイの話では、予兆としてつむじ風が吹き、倒れた馬は大口を開けているとのこと。

そこまで聞いて、これは『頽馬』(たいば)の仕業じゃないかしらと思う。

『頽馬』とは、馬の口から飛び込んでお尻の穴から飛び出していく妖怪なのだが、かっぱもこれまで一度も出会ったことはない。

相手が『頽馬』なら考えがあると伝え、かっぱは立派な栗毛の馬を一頭借りてその手綱を持ち、大きな通りに立った。

大津のカウボーイ達は草むらに隠れ、固唾を呑んで見守っている。

やがて、つむじ風が巻き起こり、その中から馬にまたがった女性が現れた。

あれが噂の『頽馬』か!

『頽馬』は風に乗ってこちらに突進し、一直線に栗毛の口に飛び込んだ。

ゴチン!という音のあと、栗毛は大きくもがいて『頽馬』を吐き出した。

事前に、栗毛のお尻の穴に大きな石を詰めておいたのだ。

出口の石に思い切り頭をぶつけた『頽馬』は、馬の口から吐き出されてフラフラしている。

かっぱは『頽馬』に荒療治を詫びながらも、馬を殺さないで欲しいと頼んだ。

すると『頽馬』は、自分はただ風のように走りたいだけなんだと言う。

しかし良い馬がいるとつい吸い寄せられるようにそちらに向かってしまい、そして殺めた馬に乗り換えて、また走り続けるそうだ。

皆んなを困らせる気はないと言い残し、『頽馬』は風に乗って消えた。

 

しばらくして大津カウボーイから便りが届いた。

あの後、見事な手綱さばきに惚れこんだカウボーイ達は『頽馬』を女神のように崇め、来年はタイバ祭りを企画しているとのこと。『頽馬』も悪い気はしないだろう。

便りの最後には、追伸、あの栗毛の尻こだまは近々に必ずお戻しください、と一言添えられていた。ばれたか。