『かっぱの妖怪べりまっち』174話「わをん」その後の話 | おばけのブログだってね、

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2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※131~174話まで、43話から登場したオリジナル妖怪たちのエピソード続編となります※

 

人生の転機にこの妖怪「わをん」その後の話

ある夏のこと、奥多摩の上流で遊んでいたら脚を滑らせ、しばらく流されてしまった。ところが途中で何かにグイッと皿を引っ張られ、川辺に這い上がることが出来た。見ると釣竿を持った小さいおじいさんがニコニコと立っている。

そのおじいさんは、近くにある旅館の主人だった。

後日、助けてもらったお礼に川魚をぶら下げて旅館を訪ねると、おじいさんはたいそう喜んで、かっぱにごちそうしてくれた。魚を焼きながら、古くなったこの旅館を畳もうか悩んでいると言うおじいさん。確かに旅館は決して立派な構えではなかったが、おじいさん夫婦の人柄と心尽くしのもてなしに繰り返し訪れる客も少なくなかった。

それならと、今度は『わをん』を従えてかっぱは再び旅館を訪れた。

 

物事のフィナーレを盛り上げてくれる鼓笛隊『わをん』は、何かが終わるときにだけ姿を現す妖怪だ。レストランの閉店、バンドの解散、さらには恋人たちの別れなど、一見、好ましくない状況のときに笛や太鼓を鳴らしながら現れるのだが、実際は人生の一区切りや次の展開を応援する妖怪なんだ。

『わをん』の演奏でかっぱが歌えば、小さな旅館は泊まり客も交えての大宴会場となり、夜更けまでのドンチャン騒ぎとなった。

数日後、旅館は休業となる。

改装が始まったのだ。

季節が代わり、新しくなった旅館には馴染み客から若者まで脚を運び、予約は1年先まで埋まった。

その様子を見ていたのが、国道を挟んで向かいにある旅館の主人。

こちらは構えは立派だが、宿のオヤジは短気で有名だった。

おじいさんに『わをん』の話を聞いて、うちにもぜひ来て欲しいと言う。かっぱは言われた通り『わをん』を従えて出かけて行った。

先日同様、『わをん』が演奏してかっぱが歌う。宿泊客もなんだなんだとやってくる。宿のオヤジも最初は喜んでいたが、寝ないで騒ぐ泊まり客や妖怪の相手をするのに飽きたのか次第にイライラし始めた。

しまいには『わをん』とかっぱに向かって、もう充分だ帰ってくれと言い、演奏を中断させた。

数日後、旅館は休業となる。

食中毒を出したのだ。

あれから1年近く経つが未だに再開する様子はない。

『わをん』の演奏を中断させるとどうなるのか、かっぱも初めて知ったよ。