『かっぱの妖怪べりまっち』167話「湯の番」その後の話 | おばけのブログだってね、

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2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※131~174話まで、43話から登場したオリジナル妖怪たちのエピソード続編となります※

 

富士山に憧れる「湯の番」その後の話

かっぱの棲む横浜の温泉は足元が見えないほど真っ黒なのが特徴だ。

尻こだまを狙って潜むには最適だが、適当にしないとのぼせて溺れる危険性もある。

 

『湯の番』は銭湯に棲みつく妖怪で、近頃はスーパー銭湯や立ち寄り湯でも見かける。

近所の銭湯には色黒の『湯の番』がいる。ここは自家源泉の天然温泉が売りで、いつ行っても庭園岩風呂のどこかに『湯の番』が浸かっている。

時折、関東周辺の『湯の番』がここに集結し、情報交換をしているようで、先日も湯の中に潜んでいたら頭の上で銭湯サミットが始まった。自分の銭湯の自慢話をしているようだ。

 

ほら、うちの黒湯に入ると肌もツルツルだろ?と口火を切ったのが地元の『湯の番』。黒光りした腕を突き出して自慢げだが、確かにお前のここもツルツルだな、とペチペチ頭を叩かれている。

湯はやっぱり乳白色だよと異議を唱えたのは箱根からやってきた『湯の番』で、硫黄泉のにごり湯は格別だと言う。

何がイオウだ鼻が曲がる!無臭の水道水が一番だ!と野次るのはスーパー銭湯からやってきた『湯の番』たち。うちでは月に一度のハーブ湯が人気だと得意げだが説得力はない。

ニヤニヤと話を聞いていた単純泉の『湯の番』が、お湯に個性があり過ぎるのもいかがなものでしょう、と切り出した。そうだそうだと加勢する水道水チームに対し、君たちは論外だよと単純泉が一蹴し、風呂場はあわや一触即発状態に。

かっぱもいよいよ湯の中からあがれなくなる。

最後に口を開いたのは山梨の『湯の番』だった。

うちは湯が良いのはもちろん、なんと言っても露天風呂から本物の富士山が楽しめますからねと声を張り上げると、一同、ホゥ、と静かになった。

勝負あり。

『湯の番』はどれも、富士山にめっぽう弱いようだ。