『かっぱの妖怪べりまっち』156話「鼻毛ひき」その後の話 | おばけのブログだってね、

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2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※131~174話まで、43話から登場したオリジナル妖怪たちのエピソード続編となります※

 

毛一族の若手「鼻毛ひき」その後の話

妖怪にも絶滅危惧種はある。

21世紀も変わらず活動している河童のような化けもいれば、文明開化以降、影をひそめた妖怪もいる。

毛一族(もういちぞく)は、存在が危ぶまれている妖怪のひとつだ。

にんげんの体毛を住処にしている毛一族、ここ最近の脱毛ブームでがくんと数を減らしてしまった。

毛一族の若手『鼻毛ひき』は風に乗って鼻毛から鼻毛へ飛び回る軽快な妖怪だが、お手入れが行き届いた近頃の鼻穴ではゆっくり休めないとこぼす。男女ともに眉毛を整える今、長老『眉毛翁』は居場所が見つからない。『ヒゲ殿下』は安泰かと思いきや、こちらも永久脱毛の波が押し寄せているらしい。

 

その毛一族に一大事があった。

『鼻毛ひき』が電動鼻毛カッターに巻き込まれて大怪我を負ったのだ。それをきっかけに彼らは重大な決断をする。

「かっぱさん、僕たちはフロンティアを目指します」

『鼻毛ひき』の回復を待って、毛一族は未開の地へと南下して行った。

 

しばらくしてかっぱが様子を見に行くと、なんと毛一族は元の住処に戻ってきているじゃないか。

フロンティアだと思って飛び込んだパンツのなかは、暖かく無風で適度に湿っており、その快適さがかえって苦痛だったと『鼻毛ひき』は言う。

「我々は風に吹かれてこその毛一族さ、いつかまた!」と言い残し、『鼻毛ひき』たちは風に乗って散り散りに飛んで行った。

この春、くしゃみが出たらこんな妖怪のことを思い出して欲しい。