『かっぱの妖怪べりまっち』154話「ねぐせさん」その後の話 | おばけのブログだってね、

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2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※131~174話まで、43話から登場したオリジナル妖怪たちのエピソード続編となります※

 

アルバムも最後まで聴けない「ねぐせさん」その後の話

かっぱの音楽仲間の『ねぐせさん』は、不思議なコンピュータ音楽を奏でて会場のお客さんを1人残らず眠らせてしまい、みんなが寝ている隙に全員の頭を芸術的なヘアスタイルにするという新しいタイプの妖怪だ。

 

コンサート後、目を覚ましたお客さんはお互いの様子に大笑いし、会場はハッピーな雰囲気に包まれる。雪おんななんてモヒカンにされちゃって、かっぱのお腹の皮はよじれ切った。かっぱは穴のあいたシュウマイみたいな髪型だった。

その『ねぐせさん』の新しいアルバムを、光栄にもかっぱがプロデュースすることになった。洗練された『ねぐせさん』の音楽は、にんげんに理解されづらいので、かっぱの庶民的な感覚でゆるく仕上げて欲しいとのこと。

ところがそんな簡単な話じゃなかった。

作業に取り掛かったとたんにかっぱのまぶたは重くなり、慌てて音楽を中断する。濃いコーヒーを飲む。再開する。うとうとしてまた中断、コーヒーにケーキを付けてもらう、次は頭を冷そうとアイスクリームを頼む、一応キュウリも用意してもらう、そんなことばかりでアルバム制作は進まないままかっぱはどんどん肥った。

焦ったかっぱはついに特殊能力を体得する。

寝ながらリズムを取り、最後まで音楽を聴いたそぶりを見せるという技だ。

曲が終わり目が覚めると同時に、オッケー!これで行こう!と叫ぶ。

あれほど手間取った録音作業も、あっと言う間に終わった。

ついにアルバムが仕上がり、『ねぐせさん』がうれしそうに言う。

「おかげで良いアルバムが出来たよ、ただ、このアルバムを最後まで聴けるひとはこの世にひとりもいないだろうな」と。

ちょっと後ろめたかったけれど、『ねぐせさん』が喜んでいるならそれでいいか。アーティストってそういうもんだよね。