2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しております。
西に棲む毛深い河童『エンコウ』の話
前回に引き続き、河童仲間の話をします。
西日本には『エンコウ』(猿猴)と呼ばれる河童類が棲んでいる。
東日本の河童類は肌がつるつるだが、この『エンコウ』は毛むくじゃらで、猿に似ているためこう呼ばれている。
あるとき、四国に住むにんげんの友達が「高知の南国市では6月にエンコウ祭りってのがあって、キュウリが食べ放題らしいよ」と教えてくれた。
それはおもしろそうだと行ってみると、確かに川沿いに小さな棚が幾つも置かれ、中にキュウリが並んでいる。にんげんの子供たちが土地の『エンコウ』のために用意したようだ。
1本だけ、のはずだったが気づけばお供えキュウリを完食してしまい、さすがに食べ過ぎたと思いながら河原でうたた寝をしていた。何かの気配に目が覚める。かっぱはキュウリを食べ損ねた地元の『エンコウ』たちに囲まれていたのだ。
「 このつるつるの河童を八つ裂きにしてやっちゅうら! 」という怒号が聞こえる。
絶対絶命!
そのときだ。かっぱのリュックからマイ・マイクがぽろりと転げ落ちた。奥にいた長老が「ほりゃあ何だ? キュウリか」と尋ねる。
すかさずマイクを構え、持ち歌の『かっぱいい気持ち』を歌い出すと、最初はあっけに取られていた『エンコウ』たちだったが、しまいには一緒になって歌って踊って、仲良くなってしまった。
歌は万能だ。
あれから連絡を取り合い、広島の猿猴川で開催される河童まつりに一緒に乗り込もうと計画を立てていたのだが、ここ数年は疫病騒ぎで中止になっているのが残念だ。