『かっぱの妖怪べりまっち』第77話「もんどり下駄」 | おばけのブログだってね、

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2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

今後、随時こちらに引っ越して参りますので、ご愛読のほどよろしくお願いします。

しばらくの間、オリジナル妖怪たちが登場します。

 

天狗から盗まれた『もんどり下駄』の話

妖怪が身近だった江戸の頃。

当時は妖怪のアイテムを平気で盗む輩がいた。

最も被害にあったのが豆腐小僧の豆腐だ。

製造年月日がはっきりしないあの豆腐を食べて、盗人は大丈夫かしらと気がかりだった。

置き引きにあった小豆洗いが、「桶はともかく、小豆を返して欲しい」と肩を落とす後ろ姿は気の毒で見ていられなかったし、小豆のない小豆洗いなんてもうただのしょぼくれたおじさんでしかなかった。

 

そんな小物妖怪だけでなく、あの天狗が下駄を盗まれたときにはさすがの化けたちもざわついた。

その直後から、たいそう身の軽い盗人が江戸の町に現れ、屋根から屋根へ飛び移ってはたちまち闇夜に消えたと噂が立つ。

もちろんこの盗人が天狗の下駄を履いていることは言うまでもない。山河をひょいひょい越えられる特別な下駄を手に入れれば、江戸屋敷の上を渡って歩くなんて朝飯前だもの。

ところがある晩のこといきなり下駄が暴れ出した。盗人は屋根からもんどり打って落ち、あっけなく御用となる。

その後、『もんどり下駄』と呼ばれるようになった天狗下駄は、江戸の町で悪行を働く者の手に次々と渡っていくのだが、忘れた頃に必ず屋根から盗人を転げ落としていたようだ。

時を経た『もんどり下駄』は今、スポーツシューズに衣替えして、走ったり飛んだりする人を足元から応援している。

時折,大事なシーンで盛大に転ばせているけれど、あれは単なるいたずらだと思う。