2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
今後、随時こちらに引っ越して参りますので、ご愛読のほどよろしくお願いします。
しばらくの間、オリジナル妖怪たちが登場します。
大イチョウを揺らして木を守る『辻力士』の話
春になるとイチョウの木の下をうろうろし始めるかっぱ。アミガサタケという春キノコを探すためだ。
秋になると今度は同じイチョウ並木の下を料理好きの雪おんながうろうろし始める。目的はギンナンだ。
雪おんな、プンプン匂うギンナン袋を片腕にぶら下げたままやってきて、
「今朝、ちょっと怖い妖怪たちを見たわ」と言う。
お相撲さんのようなそれは、イチョウの幹にせっせと”てっぽう"をくらわしていて、そのたび黄金色のギンナンが舗道に転がり落ちていたんだと。
負けてられないと思った雪おんなも真似して木を蹴ったりイチョウの枝をグイグイ引っ張るのだが、はっと気づくと力士たちがこぶしを地面に着いて、こっちをぐっと睨んでいたそうだ。
「焦ったわよ」
雪おんなの白い顔が青ざめている。
翌日、かっぱは早起きをしてイチョウ並木まで出掛けた。
いるいる、小さい力士たちがあっちこっちで四股を踏んでいるよ。
相撲好きのかっぱもすぐに加わり、一緒になってすり足や突っ張り、電車道の練習に汗を流した。
最後の取り組みでは、もちろんかっぱが皆を投げ飛ばしたさ。
飛ばされた力士たちは、黄色いイチョウの葉になってはらはらと舗道に落ちて行った。
『辻力士』はイチョウの木を守っている精霊だ。ギンナンが欲しくて木に乱暴をしたり、枝を折る不届き者を追い払うため、こうして稽古を積んでいるそうだ。
「ボクらの本場所は年に一度、この秋場所だけだ」とのこと。
「落ちているギンナンを静かに拾う人に勝負を挑んだりはしない」という『辻力士』たち。
さては雪おんな、ギンナンを前にエキサイトし過ぎたかな。
それじゃ帰りますと告げると、おみやげだと木々を揺らして大量のギンナンをかっぱに浴びせかけた『辻力士』。
あまりの臭さにひっくり返って土がついたかっぱ。
これで一勝一敗、『辻力士』たちとの勝負は来年秋まで持ち越しだ。