部屋を引き渡された翌日に退院するとなると

いくら一人暮らしとはいえ

やることがいっぱいでバタバタするのは目に見えていた。



しかし

早く退院したいという息子の気持ちを思うと


退院日をもっと後にしてください、と言いたくはなくて思いきってその日に退院することを決めた。




私と主人の頭の中では

部屋の準備をなんとか退院日に間に合わせたい一心で話だけをどんどん進めていた。




しかし実際には

部屋の契約さえもまだ交わしていなかったのだ。



私たちが最短での部屋の引き渡しを希望したためにすぐさま契約することが必要になった。



契約日までには役所に行って住民票や印鑑証明を取らないといけない。



とにかく日数がないので1日も無駄にはできない。





「契約のときはお母さまと息子さんご本人も来てください」


と管理会社に言われた。




さて、どうしよう。


これまでの失敗に懲りて今回は息子の病気のことは一切話していなかった。



契約のときに本人がいなかったら

あれ、息子さんは…?となるだろう。



そのときはもう正直に本当のことを話すのがいいのではないかと私は思った。



でももしかしたらそれで契約が白紙になったりするのだろうか。



だったら息子は旅行中です、などとごまかしたほうがいいのだろうか。




私は主人にどうする?と判断をあおいだ。



すると主人は


「ちょっと考えるわ」


と言ったのでその場は主人に任せることにした。




契約の日


またまた私と主人の二人で行った。



息子がいないことには触れられず

契約に関する説明が粛々と進んでいく。



終わり近くなってたくさんの契約書類を渡された時点ではじめて


「今日は息子さんはおられないのですか」


とさらっと聞かれた。


「ええ、はい…」


とあいまいに答えると


「まあ今日は学生証の顔写真があるのでとりあえず大丈夫です」



相手は息子が一度も来ないことに微塵も不審な思いを抱いてはいなかったように見えた。




冷静に考えてみると

平日の昼日中に大学生が来ないことは不思議でもなんでもないのかもしれない。



授業がある、サークルに行っている、バイトのシフトが入った、など大学生が来られない理由は簡単に思いつく。



聞かれたらどうしよう、と思いあぐねていたのが杞憂になってよかった。




あとは何枚もの書類に不備がないよう必要事項を記入して期日までに投函、そして審査を通過すれば契約完了だ。