下痢は続いているものの

食べる量が増えて体調が上向いてきた息子は



「キーボードを持ってきてほしい。

暇すぎて死ぬ」


と言ってきた。



移植する前に


息子が主治医と話をする中で



「移植した後の入院は長くなるから

何か楽しめるものがあるといいね。

以前キーボードを持ち込んでた人がいたよ」


と言われたことがあったそうだ。



息子のキーボードは

今年の20歳の誕生日にプレゼントしたものだ。



息子には楽器の経験はないが

ある頃から

キーボードをやってみたいと言いだした。



もともと歌うことが好きで

以前の入院中も

ずっと病室で歌を歌っていたようだ。



それだけ歌が好きな人なら

ピアノやギターなど歌の伴奏ができる楽器に

興味を示すのは自然な流れだろう。




でもたぶん

息子が病気になっていなかったら


キーボードがほしい、と言われても


「じゃあバイトして自分で買いなさいよ」


と言っていたと思う。



私はもともと

どんなに家にお金があったとしても


子どもから何かを買って、と言われて無条件に

いいよ、いいよ、と買い与えるのはいいことだとは思わないからだ。




ところがまさかの

白血病なんていう生きるか死ぬかレベルの

病気になってしまい


キーボードなんかいくらでも買ってあげるからとにかく生きていてほしい


とガラリと物事の判断基準が変わってしまった。



また

キーボードを買い与えようと思ったのは


かりに息子の移植がうまくいって

生きていてくれたとしても


しばらく息子は

病気になる前に楽しんでいたことを

かなり制限される生活が続くことになる。



そのようなとき

室内でそれほど体力を消耗するわけではない楽器の演奏は格好の気晴らしになるのでは


と考えたことが大きな理由だ。




キーボードが家に届いたのは

ちょうど息子が一時退院していたときだったが


その後まもなく息子は入院してしまい

結局キーボードは触らずじまいになった。



主人は


病院が許可したらキーボード一式持っていきます、と返事していた。


その後息子から


「先生がキーボードいいって!」


と許可を得た旨のLINEがきた。