移植から16日が経って


息子は


熱はあるけどそれほどしんどくない、

オレンジジュース飲めるくらいには

口の痛み無くなったよ、と言ってきた。



そして


手足に赤い斑点が出てきたらしい。


皮膚の発疹や下痢はおそらく

急性GVHDの症状だろう。



説明のときに聞いていた通りだ。



次々と辛い症状が出てくるのは心苦しいが

あらかじめそのようになると知らされているので安心ではある。



ところが翌日


息子がこんなLINEを送ってきた。


「昨日の夜吐いた。熱、吐き気、頭痛、倦怠感があった」


「明日、胃カメラで胃の検査ですわ」



きっと3歩進んで2歩下がるというような調子が当分の間つづくのだろう。




そんな息子の報告を受けて


主人が


「えらい具合悪そうやな。なんやろな…」


いかにも不可解だ、という感じで言う。



急性GVHDの症状のたぐいでしょ、と

言おうとしたら



「生着したら嘘みたいにすっと引くって

言ってたのにな」


と言った。




あ。


私の脳内に移植前説明の光景がよみがえった。



「生着したら嘘みたいにすっと引くんですけどね」


主治医が


前処置の抗がん剤の副作用の口内炎について

たしかにそう言っていた。



まさかこの人は……



まさか、ではなくまさに主人は


口内炎に関する主治医の言及を

移植後のすべての症状についてそうなのだと

解釈していたのだ。



あれほど深刻な内容の説明を聞いても

けろっとしていたこと


退院は2ヵ月後くらいかな、と呑気に言っていたこと


息子にまだしんどいか?としつこく聞いていたこと



今まで違和感を抱いていた主人の数々の言動の謎が一気に解けた瞬間だった。




前処置の副作用、生着症候群、GVHDなど

あらゆる合併症が移植後2週間ですっと治まると思っていたなんて。




アホやんこの人、と思った。