移植してから8日め


息子は

柔らかくて小さめの歯ブラシをほしい

と言ってきた。


もう

ふつうの歯ブラシでは痛くて磨けないのだ。


さらに


「昨日は舌痛すぎて寝れんかった

薬塗ってましになって寝れた

保険適用外の薬使っちゃってる」



寝られないほど舌が痛いなんて…



何かほしいものはないの?と聞くと


「食べもの食えへんわ」



息子は口内炎だけでなく


高熱や頭痛、下痢もひどいらしい。


着替えを持って行ったときに

看護師さんに聞くと


「解熱剤と痛み止めを使ってますが

ぐったりと横になっておられます」



もう座っていることもできないのか…




一気にいろんな苦痛が押し寄せて

ぐったりと横になっている息子を思うと

この上なく辛いように思うが


お母さん来てください、とは言ってこない。



息子は

母親に来てもらうのは恥ずかしい

と頼りたいのを我慢しているのだろうか。



いや、そうは思えない。



私と息子の関係は良好だった。


仲のいい親子くらい

世間にいくらでもいると思うが


息子がめずらしいと思うのは

それを人に見られても気にする様子がないことだ。




高校の参観日に行ったときのことだ。


私は

ここは学校だから、自分から息子に

手を振ったり話しかけたりしないでおこう

と思い廊下に立っていた。


すると

息子が私を見つけて友達と一緒に

私のところにやってきた。


「ママ、来てたんや」


「うん、来てたよ。じゃあ帰るね」


そう言って帰ろうとしたら


「待って、一緒に帰ろう」


と言うので内心びっくりした。



これを見ていた友達のお母さんも


「うちの子なんて、絶対話しかけるな、とか

参観日なんか来なくていい、とか言うのに」


と言って息子の態度に驚いていた。



そんな息子のことだから


しんどいときに母親に頼るのを見られることを気にするとは考えられない。



主治医の目には

息子のメンタルはまだ大丈夫と映っているのだろうか。


それとも

この先これに勝るとも劣らない苦痛が待ち受けていて、私を呼ぶのはまだ早いということなのだろうか。