息子はもう

家族LINEでの会話をしなくなった。


たぶん

会話どころかスマホをいちいち見ることさえ

辛いのだろう。



1日1回

ほしいものを連絡してくるだけだ。


きっとその連絡も力を振り絞るようにして

やっとの思いでしているにちがいない。




その日は雨が降っていた。



病院にはいつもは自転車で行っているが

歩いて行くことにした。



歩きながら


ほんとうに人生には

思いもよらぬことが起きるのだな


と今さらのように思った。



これまでの人生で

私の身近な人で白血病にかかった人は

一人もいなかった。



それが

よりによって自分の息子が白血病なんて。




世界で一番なってほしくない人だ。





途中にあるスーパーに寄って

息子に頼まれた買い物をする。



このスーパーのレジのおばさんも

異変に気づいているかもしれない、と思う。



元気なときの息子は

頻繁に私の買い物について来ていた。



荷物持ちをするという名目で

好きなものをポンポンかごに入れていくのだ。



私の横でレジに並ぶ息子を見て


いつもいるレジのおばさんは


「こんな大きなお兄ちゃんなのに

こんなお菓子が好きなんやねぇ」


と笑いながら


ポテチやグミやアイスの

バーコードを読み取っていた。



そんな息子が突然来なくなったのだ。



さらに息子が病気になってからは

私の買い物の仕方が変わった。



病院に行く前にスーパーに寄り

息子のアイスやお菓子だけを買う。



それを病院に届けてから

再びスーパーに寄り

家で使う野菜や肉や魚を買って帰る。



勘のいい人なら

息子は病気なのかなと気づくかもしれない。





看護師さんに

息子がほしいと言ったアイスとジュースと

みかんの缶詰めを渡した。


高熱のため

冷たいものがほしくなるのだろう。



病室に荷物を持って入り

出てきた看護師さんから洗濯ものを受け取る。



帰ろうとした私に看護師さんが声をかけた。



「あの、息子さんから

雨の中来てくれてありがとう、と伝えて

ほしいと言われました」



また涙が出てきた。