移植前処置の抗がん剤が始まった。



そのことにより

私の気持ちはふっ切れた。


始まってしまえばもう

移植しないほうがいいのかも、と思うことはない。


息子は一度も

嫌だとかこわいとか言うことなく

移植する道を選んだ。



すべての人は

その時々で最良の選択をしている。


これが最良の道なのだから

結果がどうであれ前に進んでいくのみだ。



病気が病気だけに

もしかしたら息子の命は、という思いは

つねに心にある。



けれど

人生の時間を不安な気持ちに支配されたまま

生きるのはよくない。


不安になりかけたら

明るいほうを見るようにして今に集中する。



こんなときは犬がお手本だ。


犬はいつも目の前のことだけに集中している。


今興味あるものを見て

鼻先をかすめる匂いをかぎ

目の前にいる私に寄り添ってくれる。



息子はどこに行ったのだろうか、

と考えることも


息子が早く帰ってこないかな、

と考えることもない。


けれど

息子が帰ってきたら全身全力で喜ぶ。


それでいいのだ。




資料には

この日から4日間フルダラビンを静脈注射で投与すると書いてあった。


何も知らない私は

すごい量の抗がん剤を投与するのだから

初日からしんどくなるのかと思っていた。



息子にしんどくないかと聞いてみたら

全然しんどくない、と返ってきた。


病院の食事を完食して

さらに鮭おにぎり2個持ってきてほしい

と言ってきた。



いつからしんどくなるのだろうかと

内心でびくつきながらも


何かを食べたいと言ってくれることは

(息子は一生懸命生きようとしているから大丈夫だ)と私の心に大きな安心感を与えてくれた。