明日から抗がん剤投与が始まるという日


病院に着替えを持っていくのに

私と主人の二人で行った。



いつもは私一人で行っていて

荷物を看護師さんに届けてもらったあと


息子が病室から出てきて

私と少しばかり会話するのが恒例になっている。



しかし前処置の抗がん剤が始まれば

息子は病室から出られなくなる。


生身の息子に会うことは

この日を境に当分の間できなくなってしまう。




預けた荷物を看護師さんが

息子の部屋に届けてくれたあと


いつもなら

出てくる息子がなかなか出てこない。



主人も来ているのに。



息子に電話してみた。


「もしもし。あーちょっと待ってて」



しばらくして息子が出てきた。



片手に点滴のポールを持って

もう片方の手にはパソコンが抱えられている。



「麻雀やってて…全然あかんわ」


私たちにお構い無くゲームをつづけている。



「あれ、なんで父もいるん?」


明日からしばらく会えなくなるから、

と言ったら


「え、なんで?あ、そうか」



「おー来たー、流れ変わった、いけるかも」


「父が来たからかな。

こんなんやったら毎日来てほしいわ」



無邪気に麻雀に興じている。



治療つらいけど辛抱してや、

と言う主人や


これが生きている最後の姿に

なりませんように、と願ったりしている私と


息子の意識の温度差が大きい。



最下位だったところから

上位であがることができた麻雀の結果に

息子は上機嫌だった。



「ありがとう、ほなまた」


そう言って

パソコンを持ち点滴ポールを引っ張って

息子は病室に入って行った。



ここまで自分の病気を意に介さないで

いられるというのはある種の才能だ。