息子が

部屋に入ってきて私のとなりに腰かけた。



私と主人には

説明資料が配られているが息子は手ぶらだ。



資料ないの?とたずねると


「もうもらった。病室においてきたけど」


と言う。


取ってくる?と先生が聞いた。


「いや、いい。めんどくさい」


ああ、内容はもう頭にちゃんと入ってるってことね、と言うと


「え?あ、うん、当然やw」


ヘラヘラ笑っている。



この子はほんとに病気なのだろうか。


いつもと同じように食べて歩いて笑っている。


ほんとに移植するしか道はないのだろうか。




先生が言った。


「息子さんのタイプの白血病は

移植にまでたどり着けない人もいます」


「まずは移植する地点に来れたことを

ラッキーと思いましょう」


これがラッキーと言えるほど

致死率高かったの?と軽く驚いた。



手元の資料の題目に目をやると


「骨髄破壊的前処置による

移植後シクロホスファミドを用いた

血縁者間HLA半合致移植の説明 」とあった。


骨髄破壊的前処置、


私にはこの字面だけで

(半分死んでるのと同じ)くらいに

思えてしまう。



つづけて先生は


骨髄バンクには息子と合致する型が

なかったこと、臍帯血にはあるにはあるが

成人男性である息子には量が足らないことを

踏まえて父親の造血幹細胞を移植することになった、と説明した。



私の中で

退路を断たれている感が強まった。



さらに


「お父さんなので半分は一致していますが

半分も違うんです」


先生は「半分も」の「も」の部分を

強調して言った。


「半分も違うものを入れるということは

体にとって相当大変なことなんです」



もっともだ。すごく納得できる。




その後

免疫反応によるGVHDやさまざまな合併症の説明がつづいた。


資料の中の「生着不全」のところに


ドナーの細胞が生着せず、血球がまったく

回復しない場合は速やかに再移植が必要

と書いてあり


先生は


「こうなったら臍帯血を移植することになります。背に腹は変えられないので」


と言った。


さっき、へその緒の血は少なすぎて

足らない、て言ってたやん、そんなの

焼石に水じゃないの?もう死ぬってこと?


と問いただしたくなった。



資料の文章も、先生の説明も

とても分かりやすく


もう分かりたくない、と思うほど

頭に入ってきた。



移植をしたらどのような状態になるのか

ということについて


漠然と不安を抱いていたのが

はっきりとした様相となって迫ってきた。