移植前説明を受ける日がやってきた。



移植に向けて

一段一段階段を登っていっている感じだ。



それは

息子の回復に向けて治療が進んでいる

ということなのに


一段上るごとに

私の気持ちはずんと沈んでいく。



移植をするしか息子が助かる方法はない

と頭ではわかっている。


それでも

移植をやりたくないという思いは

私の中から消えてなくなることはない。



厳密に言えば

私が嫌だと思っているのは


移植そのものではなく移植前処置だ。



大量の抗がん剤投与と放射線を照射すること


私の中で

この二つに対する拒否感があまりに強く


それ無しでは実施できない移植を

やりたくないという心境にまでなっている。



その点主人は

それらのことに私ほど拒否感がないために


着々と移植の準備が整っていくことを

喜ばしいと捉えられているようだ。



主人は移植に対して

大きな期待とわずかな不安


私は

そこそこの期待と大きな不安を抱いている。





説明を受けるため

主人と二人で病院に向かった。



私の心は重く暗かったが

主人にはそう思われないよう振る舞った。



説明を受ける部屋に通されてしばらく待つ。



主治医がやってきた。



彼女は開口一番こんな話をしてくれた。



「息子さんにね、家にいる間に

食べたいものいっぱい食べた?て聞いたんです」



息子が先生に質問することと言えば

食べ物のことばかりだったからな。



「そしたら、うん、いっぱい食べた、

いっぱい食べたけど、でもやっぱり

一番おいしいのはお母さんが作ってくれる

ごはんなんですよね、て言われたんです」



涙があふれた。



たまらなくうれしくてたまらなく悲しい。



こんなにいい子なのに

こんなつらい目にあわないといけないのか。




「そろそろ息子さんも来ると思います」



あ、息子もここで一緒に聞くのか。


私は急いで涙をぬぐった。