この日の息子は

血小板は下がっていたものの

好中球は1700以上あった。



そして

がん細胞の数値は4割ほど低くなっていた。


ポナチニブは効いてくれていた。



移植ができる条件が整いつつある。



息子は明日入院する。


とうとう移植へと向かう

レールの上を進んでいくのだ。



私の心だけが

レールに乗りきれず取り残されている。





入院を翌日に控えた夜


息子に

晩ごはんは何がいいかたずねたら


「ごま豆乳鍋が食べたい」


と返ってきた。


息子が一番好きな鍋だ。



明日からまた

息子は家のごはんを食べられなくなる。



再び

家族で食卓を囲むことができるのは

いつ頃になるのだろう。





入院当日の朝


息子は主人の母と電話していた。


もう

今度は相当な期間

息子は病院から出られなくなる。



「今から入院してくるわ」


「おばあちゃん、何もしてあげられなくて

ごめんね」


「いや、そんなことないよ」



「ほんとに何もしてあげられなくて

申し訳ないけど…」


「おばあちゃんはいてくれることが支え

やから。存在が大事や」



「…なんで…そんなにいい子なの…」


母は泣いていた。





息子、私と主人

3人でタクシーに乗り病院に向かった。



とりあえず、ここで待っていてください

と案内された病室に

3人で入った。



ふと

窓から外を見ると

春なのに雪が舞い散るように降っていた。



病室のある5階から

大きな雪が上下に舞うようすを見ていると


ドームの中に雪が降っている

クリスマスの置物を思いだした。



3人ともとくに何も話さなかった。



言葉を交わしても交わさなくても


誰かが感じていることや


思っていることなど本当にはわからない。



でもそれでいいのだ。