外来受診日の朝。


とてもいい天気だった。


「自転車で行ったらあかんかな」


息子が言った。


ほんとに行けそうな気がした。


以前

息子とラーメンを食べに行ったり

一緒にスーパーに買い物に行ったりしていた

ときのように。


二人で自転車でチャーっと行こうか…



いや、だめだ。


今の息子は元気ではあるが

白血病患者なのだから。


いつも通りタクシーで行った。




今日は

息子が嫌いな骨髄検査だ。

(好きな人はいないと思うが)


待っている間

息子が頭が痛い、と言いだした。


ロキソニン持ってくればよかった、

とすごく痛そうだ。


一時退院してから

家では頭痛を訴えることはなかったのに。


「病院があかんのかな」


私が考えそうなことを息子が言った。



骨髄検査が終わり

診察を受けて帰るのかな、と思ったら


このあと化学療法室に行ってください、

と言われた。




ここで私は動揺してしまった。



抗がん剤を2回やってから移植、

という治療計画しか聞かされていない私は

急に飛び込んできた化学療法室という単語

に戸惑いを隠せなかった。



今は

抗がん剤が1回終わっただけで

あともう1回抗がん剤やるんじゃないの?


化学療法室って今まで先生の口からは

一度も出てこなかったのだけど…


あるいは息子の状態が急に悪くなったの?



「ここで何をするのですか?」


わけがわからず質問した私の動揺を

見てとった看護師さんが気づかってくれた。


「今、説明を聞かれたいですか?」


「先生を呼びましょうか?」


私は

看護師さんの気づかいには感謝しつつも


自分の動揺は

髄液注射がどういうものか

ということではなく

治療計画として聞かされていなかったことからくるものだと判断したので


「いえ、大丈夫です。

初めて聞いたから、びっくりしただけです」


と答えた。


もしかして

息子は知っていたのだろうか。


たずねてみたら

息子も先ほどの骨髄検査のときに

聞かされたらしい。



少しは病気のこと

調べたほうがよかったのかな、

初めてそう思った。


私は

息子に病気にフォーカスしないでほしい、

と言うだけでなく

自分もあえて検索しないようにしてきた。


もし

いろいろ調べていたら

髄液注射と聞いても、動揺することなく

ああ、こういう段階でこういう流れなんだ、

とピンときただろう。



でもやっぱり

私は検索しなくてよかったのだと思う。


ただでさえ

移植をこわいと思っているのに


移植が近づいているとわかって

不安を感じながら過ごす期間を

増やさずに済んだのだから、

と思うことにした。



髄液注射は抗がん剤の代わりですか?

と聞いた私に


いえ、違います、

と先生は言い

髄液注射の説明をしてくれた。



そしてやっと

私は移植が近づいていることを理解した。


髄液注射は

この日から3日後の外来受診のときに

やることになった。