今回の退院では

前回よりもやや規制が緩くなっていた。



何しろ

前回の退院時は好中球の数値が

330だったのに対し今回は1500もあるのだ。



ごはんは冷凍OK


マクドは揚げたて注文でOK


パン屋さんのパンも食べていい


人と会うのOK(15分)



15分て。


「おう、久しぶり~」


「めちゃめちゃ久しぶりやなー」


「元気そうやん」


「うん大丈夫やで。あ、じゃまたな」


「なんでやねーん」



へんてこなコントみたいな感じで

終わってしまいそうだ。




前回の退院時は

そもそも人に会うことは禁止されていたので

息子は誰にも退院したことを

言わなかったそうだ。



今回の15分限定について

息子自身

「15分じゃ何もできねぇー」

と言っていたから

友達との対面は考えていないだろう。



しかし、だ。

ここは念には念を入れておかないと。



「あのね。

友達に会いたいと思ってるかもしれないけど

会えば15分で終わるわけないと思う。

今は大事な時期だから、会うのは我慢して

ビデオ通話とかにしてほしいの」



息子は

私の言葉にいっさい反論しなかった。



彼自身も

軽はずみな行動は命取りになりかねない

ということをよくわかっているのだろう。


何しろ

治療はまだ始まったばかりだ。



もしも

息子が生き長らえることができたなら


その先の人生には

それまでは普通にできていたことが

できない、といった制限のかかることが

数知れずあるだろう。



その場面を想像すると切なくなる。



けれど

息子ならきっとそのような中にあっても

幸せに気づくことができると信じている。






病室にあった荷物は

前日に主人が持って帰ってくれたので

当日は紙袋ひとつだけだった。



その紙袋ひとつさえも

息子は私に持たせまいと奪い取ろうとする。


「女性に荷物を持たせたらあかんねん」



まるで

スマートな執事のようだ。



誰に似たのだろう。



そうか、主人だ。


主人も私に荷物を持たせはしない。



しかし

同じ行動を取っていても

主人がやってくれているときは

「爺や」にしか見えない。


不思議な現象だ。