息子のドナーに決まった主人の

造血幹細胞採取のための入院が迫っていた。



主人の担当は

血液内科部長の先生だ。


コーディネーターさん同席のもと

ドナーになることについて説明してくれた

人だ。


おそらく

年齢は主人と同じか少し年下くらいで

鷹揚な感じのいい先生だ。



入院前の診察のとき

先生が主人にこう言われた。


「何か聞きたいことはありますか」


「ビールは飲んでいいですか?」


「ああ、いいですよ」


息子はおやつのことばかり聞いているし

主人ときたらビールのことだ。


やはり親子だな。




さらに主人が


「息子は、大丈夫でしょうか」




私は主人から

その話を聞いていて

よくそんな答えづらいこと聞いたな、

と思った。



そんな主人に

先生は


「ああ、大丈夫大丈夫」


と笑って言われたというのだ。



すごい人だと思った。


大丈夫、なんて言っても

その保証は何もないからだ。


多くの先生はなかなか

大丈夫、とは言いきらない。


もしも

大丈夫じゃなかったときに


「あのとき大丈夫と言ったじゃないか」


と責められたら困るからだ。



だから大抵


大丈夫、とは思います

とか

絶対というのはありませんから

と付け加える。


けど本当は

みんなそんなこと聞かなくてもわかっている。


それでも

主人が聞いたように

「大丈夫でしょうか」と聞くのは


先生という立場の人から

「大丈夫」

という言葉を聞きたいのだと思う。



実際に私は

主人からその話を聞いて心が軽くなった。


「大丈夫大丈夫」


私も心の中でつぶやいてお守りにしよう。



そして

どんなことがあっても

私は誰のことも責めたりしない。