「明日、退院しようか」


で退院して


「明日、入院しようか」


で入院した息子。


わずか10日間だった。


息子がいなくなった家は空気感が違う。



家の中にも私の心の中にも

大きな空間ができてしまったようだ。


もう

朝から魚を焼いたり

野菜を切ったりゆでたりすることもない。


その慌ただしくない時間の流れが

よけいに息子がいない寂しさを際立たせた。



その一方で私は

家にいる間に息子を

感染症にかからせることなく過ごせた

という安堵をも感じていた。




息子が入院した翌日


今日から抗がん剤か…


昨日、体に管を入れると言っていたから

また点滴の袋を数種類ひっさげているのかな


と思っていたら


息子からLINEがきた。


「好中球が790に下がったから

抗がん剤やってない」




え?

今まで順調に上がってきて

1040になったのが、そんな急に下がるの?



きっと

入院して気分が落ち込んだのと


私の心を込めて作ったごはんじゃなくなったからだ


瞬間的にそう思った。



医学的知識が皆無だと

こんな発想にしかならないのが

自分でもおかしかった。



しかし

息子の状況は笑っていられるものではなかった。



息子が先生から聞かされたのは


このまま数値が下がるとまずい。


これまでの治療方針を変える必要がある。


抗がん剤と分子標的薬の併用は

攻撃力が強すぎてできない。


かといって

分子標的薬だけでは効力が期待できない。



というものだった。


さまざまな報告がある中で

息子にとってどうするのが一番いいのか

医師チームで話し合っているらしい。



息子の白血病のタイプは

だんだん薬が効かなくなってくることが多く病気のコントロールができなくなってしまうのがこわい


とたびたび先生に聞かされている。



まさか

もうそういう段階に陥っているのだろうか。



私の、私たちの

大切な息子はどうなってしまうのだろう。