ひさびさに外の空気に触れる息子。


病院からの帰り道

タクシーの窓越しの景色に


「なんか懐かしいW」


とつぶやいた。



息子は

退院が決まったとき


「おねえちゃん、オレが帰ってきた

ときの犬の様子、ビデオにとってや」


と姉に頼んでいた。



犬は

部屋を走りまわっては息子にとびつき、

を繰り返し

うれしくてたまらない、と全身で

言い表していた。


この犬は

赤ちゃんだった頃一番よく遊んでくれた

息子のことが大好きなのだ。



こういうとき

犬にも言葉が理解できたらな、と思う。


犬には

ある日突然大好きな人がいなくなって

しまった理由がわからない。



「お兄ちゃんはね、あなたが嫌いに

なって出て行ったんじゃないんだよ」


「今でもあなたが大好きで、あなたに

会いたいって思っているよ」


「病気になったから家にはいないけど

いつか元気になって帰ってくるよ」


と説明してあげたい。



これは一時退院で

いずれまた息子は入院する。


そのことを思うとちょっと切ない。



でもやっぱり

一時的でもなんでも

息子が家にいるってすばらしい。



息子と犬の喜びの再会をそこそこに

私は台所に直行して

昼ごはんの用意にとりかかった。



息子には

栄養のバランスを考えた

手作りの出来たてを食べてもらうのだ。



たかだか昼ごはんを

こんなに意気込んで作るなんて

生まれて初めてのことだと思った。