私はもともと体力がない。


手を抜いてはいるつもりだが

家事をしているだけで結構しんどい。



息子が白血病になり

精神的にもきつかったが


普段の家事に加えて

病院に洗濯物を届けることが

地味に私から体力を奪い取っている。



うなぎが食べたい、と思った。


けれど

主人は息子が病気になってから

外食しようと言わなくなった。



その点娘は

親ではないので私や主人とは

受けるダメージが違うのだろう。


何より

持って生まれた性格が

ドライでマイペースなのだ。


息子が白血病とわかった日こそ

涙を見せていたが


翌日からは平常通りだった。


まあ私が

普段通りの生活をしよう、と言ったので

がんばってそのようにしてくれている

のかもしれないが。


ふさぎこんでいる人を

無理に連れ出すことはない。


うなぎは娘と行くことにした。



人気の店だったので

開店そうそう行列ができていた。


店が用意した紙に

名前と人数を書こうとしたら


中国人や韓国人と思われる

名前がたくさん書いてあった。


うな重は

並と上と特上があり

娘と「何にする?」

「上うな重にしようか」と言っていた。


が、長く待つ間に

空腹感は増しに増して

特上にするべし、と胃が命令していた。


この待ち時間は

店の戦略ではなかろうか。



やっと順番がきた、と思ったら

店の人が

「個室なら今すぐご案内できますが

個室料金がかかります」


「どうされますか」


と聞いてきた。


こういうところ私はケチだ。


うな重8500円は

惜しいと思わないが

10%の個室料金はもったいないと思う。


だって相手は娘だ。


娘と二人

お腹いっぱいになるまで

うなぎをかき込みたいだけだ。


私は

「待ちます。

こちらの方を先にご案内差し上げて

ください」


と隣に座っていた中国人らしき

カップルに先を譲った。


すると

店の人はこちらへどうぞ、と

身ぶりでカップルを個室に案内した。



そりゃそうなるよね。


私達にした説明を中国語でなんて

普通できっこない。



カウンターに座った私は娘に言った。


「やっぱり特上にしない?」


「上うな重と何が違うの?」


「量が多いのよ」


「じゃあそうする」



特上うな重の量は想像以上だった。


普通の配分で口に運んでいたら

ご飯が足りなくなるくらい

うなぎがたっぷりだ。


炭で焼かれた表面は香ばしく

身はとろけるように柔らかく旨味が濃い。


うなぎのおいしさにどっぷり浸りながら

幸せな気持ちで食べ終えた。

満腹、満足だ。



ふと

娘を見ると箸の動きが止まっている。


いやな予感がした。


「多い。ママ食べて」



うなぎを食べ過ぎて

吐きそうになったのは人生で初めてだ。


力を付けようとしたことが

逆に体に無意味な負担をかける

結果になってしまった。


もう娘には特上うな重は食べさせまい。