私は

自分の父親に息子の病気のことを

話していない。


もう高齢で

自身の健康もおぼつかない人に

無駄に心配をかけなくてもいい

と思ったからだ。


父が比較的

情の薄い人だということもある。



しかし

主人の母は

私が息子と救急受診したとき

主人と一緒にいて

私が電話で報告するのを

聞いていたので一部始終を知っている。



その母が私に電話をくれた。


「長いこと生きてきてこんなことが

起こるなんて思いもしなかった…」


いつもと違って

言葉少なになりながらそう言った。


沈黙が流れる。


おそらく

涙につまって言葉が出づらいのだろう。


それでも

私のことを気遣ってくれたり


「でも(息子)くんは幸せですよ。

いろいろ持ってきてほしいって

ママに甘えられるんですから」


「世の中にはそれが出来ない子も

いっぱいいるからね」


と言ってくれた。



この母は93歳だ。


終戦直前に母親が病死してしまい

中学校へは行かずに

自身が母親代わりとなって

4人の妹を育てた。


結婚してからも

ずっと働きながら一生懸命

息子(私の夫)を育てた。


その大事な息子が

バイクで事故に遭い生死をさまよった

ときは怖くて怖くて

生きた心地がしなかったという。


主人が私と結婚してからは

私がこの母を苦しめた。


ようやく

平穏が訪れたと思えば

最愛の孫が白血病になった。


そのことに苦悩する主人の姿をも

目の当たりにして

母の心中いかばかりか、と思うと心が痛む。



母はずっと

看護師として働いていたので

私よりよっぽど病気のことは知っている。


93歳だが

非常に頭がしっかりしていて

孫がどういう状況かをよく把握している。



しかし

決して恨みつらみを言うことはない。


私には

悲しい、辛い、と自分の感情を

訴えることはせず

私をねぎらい安心させるような

言葉をくれる。


ほんとうに

愛情深くて観音さまのような人だ。


苦労ずくめだった

この母のためにも

最後はハッピーエンドで、と願う。