抗がん剤を服用してから

免疫が下がってくるのに備えて

息子はクリーンルームに入ることになった。



クリーンルームがどんなものなのかを

知らなかった私は

医療ドラマなんかに出てくる

無菌室のようなものを想像していた。



が、実際のクリーンルームは

見た目は普通の個室と変わらない。


違うのは部屋の中が

透明のアコーディオンカーテンで

仕切ってあって

空気管理により室内の病原微生物を

極力排除していることだ。


だから

息子は基本その部屋から出てはいけない。


しかし

着替えやタオルなどは

クリーンルーム専用のものを

病院が用意するわけではなく

今まで通り

家で洗濯して届けるのでいいそうだ。


うちには

めったに洗わない犬がいて

抜け毛が散乱してるけど大丈夫かな。



変わったことは

お茶を届けるようになったことだ。


今までは病院で沸かしたお茶を

各自のやかんに分けてもらって

飲んでいたが


クリーンルームでは

細菌の繁殖を防ぐため

24時間内に飲みきることができる

ペットボトルのお茶を差し入れて

ください、と言われた。


なので

500ミリリットルのペットボトルの

お茶を箱買いして

1日あたり3~4本届けることにした。



食べ物に関しても

食べきりサイズのものに限定された。


それまでは

息子が好きなお菓子は

普通サイズのものを差し入れていたが

残した分を翌日食べるのは

だめなそうで

スーパーで小袋に分けられた

タイプのものを探して持って行った。


また

生ものはだめということで

イチゴなどは持って行けなくなった。


病院食についているリンゴは

コンポートのような火を通したものになり

ミカンは缶詰めになった。


生ものを避けることは

徹底しているなと思ったが


意外だったのは

冷凍食品は食べてよいと言われたことだ。


たしかに

冷凍の焼きおにぎりやパスタなんかは

レンジで加熱してすぐに食べれば

細菌はほぼないと思うが


私みたいな

医学に関して無知な

衛生観念の低い主婦の感覚では

冷凍食品を食べるくらいなら

イチゴ食べる方が身体に良いのに

と思ってしまう。


栄養価の話をしているわけではない

のはわかっているのだが。



白血病のこと

骨髄移植のこと

クリーンルームなるものがあること


半世紀以上も生きてきたが

これらのことは何も知らなかった。



ひとりの人間が知っていることなど

世界にあふれかえる

たくさんのものごとのうちの

微々たるものに過ぎない。