抗がん剤を始める日


息子が家族LINEに


「緊急速報」


と言ってきた。


何、なに?

と思ったら


「今から坊主します」


おぉーいさぎよいやん、と思った。



副作用で髪の毛が抜けるから

そうなったら坊主にする、

とは聞いていたが

いきなりこのタイミングでするとは。


しばらくして


ビフォー、アフターの写真と

「特別映像」

と題して髪の毛を看護師さんに

刈ってもらう様子の動画が送られてきた。


息子は丸刈りにするのは初めてだ。


いつもどちらかといえば髪は長めだった。


その長めの頭髪に

じょりじょりバリカンを入れて

切り落とされた髪の束を手に

ニコニコ笑いながら

「おぉ~」

と感嘆の声をあげる息子がいた。

まるで

何かのイベントを楽しんでいるかの

ような映像だ。


出来上がった丸坊主の息子。


初めて見る姿だ。


こんな頭の形をしていたのか。


今までは

ツーブロックの髪型に

ところどころメッシュの金髪がまじった

いかにも大学生という外見だったのが

どこかの野球部の高校生みたいになった。



さすがに

この時点では

自分の病気がどういうものかを

理解していたであろう息子は


それでも

愚痴や泣きごとを一切言わず


この病気にならなかったら

決してしなかったはずの丸刈りでさえ

屈託のない笑顔で受け入れている。



彼は

いつのまにこんなに強い人間に

なっていたのだろう。



えらいよ。あなたは。


長かった髪の毛が刈り落とされて

くりくり坊主になった息子の頭を

できることなら

思いきり撫でまわしてほめてやりたい

と思った。