楽しい時間はあっという間だ。


みんなでお寿司をたらふく食べて

お腹がいっぱいになるのと同時に

さみしい気持ちもいっぱいになってきた。


もう約束の2時だ。

楽しかった舞踏会をあとにする

シンデレラみたいに

もう病院に戻らなければ、と

タクシーに乗った。


病棟について

ナースステーションに声をかけた。


いよいよここで

息子とはしばらくのお別れだ。


あまり

しんみりし過ぎるのはよくないけど

軽く息子をハグしてお別れしよう、

と思っていた。


見ると主人が先にハグしていた。


あ、先を越された。

内心ちょっとムッとした。

それも

やっぱりしんみり、というか

湿っぽい雰囲気をかもし出してるし。


それに対して息子は

何と言ったのかは聞こえなかったが

逆に父親を励ます感じのことを

言ったのだと思う。


私は


「辛いけど治療がんばってね」


と息子に声をかけ軽くハグした。


息子は片手を私の腕に添えて


「大丈夫やで。どうせ生きてるし」


そう言って自分の病室に戻って行った。



「あいつは強いわ」


主人がポツリと言った。


そうだよ。

私たちの息子は強いんだよ。

だから私たちも強くなろうよ。


心の中で主人にそうつぶやいた。



家に帰って夜はそうするのが

習慣だからというだけで

テレビをつけてその前に座り

番組は見てないけど顔は画面に向けたまま

主人が


「眠れそうにない…」


と私にもらした。