私と同様

息子も白血球と聞いて思い浮かぶ病気は

白血病しかなかったようで

「オレ白血病かもしれんな」

と言った。

「うん、そうかもしれないね」

私はできるだけ淡々と返した。


息子は

白血病という病名こそ知っていたものの

それがどういう病気かという知識は

まったく持ち合わせていなかった。

水泳の池江璃花子さんがなった病気、

それが彼の白血病についての全知識だ。


さいわい池江璃花子さんは回復されて

そればかりか水泳界に復帰までしている。

「ハリウッド映画とかに出てる

渡辺謙さんも白血病にならはったね、

治らはったけど」

私は白血病になった有名人の話をして

不自然じゃない程度に

彼らが回復していることを強調した。


廊下で待つ間にそんな話をしていると

血液内科の医師がやってきた。


息子が診察室に入り

しばらくして「お母さんもどうぞ」

と声をかけられた。


私が椅子に腰掛けると

医師は私と息子の顔を見て言った。


「晴天の霹靂かもしれませんが」


「息子さんは急性白血病と思われます」


「現時点での見立ては急性骨髄性白血病です」


ああ、きたか。


信じられない、いや信じたくない話だが

これは現実だ。

ここにきて息子が白血病、とは。

ほんとに思いもよらぬことが起きるのが

人生というものなのだ。


医師から病名を告げられても

顔色を変えず何も言葉を発しない私は

ショックで呆然としているように

見えたのだろうか。


続けて医師が問う。

「白血病と聞いて、どんなイメージを

お持ちですか?」


どんな、って。。。


そんなの「死」だ。


昭和ど真ん中生まれの私にとって

白血病と聞いてまず浮かぶのはそれだ。

でもとなりには息子がいる。

今それを口に出して

彼に聞かせてはいけない。


「池江璃花子さんがなられた…」

黙っているわけにもいかず

とりあえずそう言った。


「あの方はリンパ性白血病ですけどね」

と医師が言い

白血病にたいする良くない

イメージを払拭しようとフォローして

くれたのか、どうなのか、その後の会話の

記憶がない。


私の人生における

息子の闘病のゴングが鳴った瞬間だった。