今すぐ命に関わるわけではないけど

入院をおすすめします、入院できますか?


悠長なことを言っているともとれる

救急医の言葉は

同じ息子の状況を言い表すのでも

人によってこれほど用いる言葉に

差があるのか、という印象を私に与えた。


しかし

時間がたつにつれ

この医師はすごく配慮のできる人なのだろう

と考えるようになった。


体のダメージがひどいにもかかわらず

明るく飄々とした息子と

それに付き添うおっとりした母親。

きっとこの人たちは

白血病なんて夢にも思っていなくて

いきなり病名を告げたりしたら

ショックが大きすぎやしないか、

そう思って

血液内科に引き継ぐ前に

ワンクッションおいてくれたのかもしれない。

この医師から見た私は

あまりのショックにおろおろ泣きだして

しまう母親に思えたのかもしれない。


そして

何よりもよかったと思うことは

救急医のこの言葉が

息子が自分の病状について

はじめて耳にする見解だったことだ。


息子の体が深刻な状況にあるのは

動かしようのない事実だが

心は明るく強く持っていてほしい

それが私が息子に願ういちばんのことだ。

病気の回復にあたっては

本人の気の持ちようが大きく作用する

と思うからだ。


命に関わるわけではないけど

入院できますか?

この言葉は

白血病です、すぐに入院してください、

と言われた場合よりも

息子の自分の病気にたいするイメージを

軽くするのに役立ったのではないかと思う。


また

私はこのときほど息子が

娯楽にしか興味のないおバカな大学生

であることに感謝したことはなかった。

大学生の中には

白血病って白血球の遺伝子変異による

血液の癌みたいなものでしょ、

と言えるくらいの人もいると思うが

息子はそういうタイプではなかった。