「命に関わるわけではない」


この言葉を真に受けたい自分

そして

息子がそこまで深刻な状況ではない

と思い込むための拠りどころにしたい

そう願う自分がいた。


「入院できますか?」


すぐ入院してください、ではなく

入院できますか?と尋ねるということは

たとえば

じゃあ、大学の課題をある程度

片付けてから入院することにします、

なんていくぶん猶予の残された状況

なんだろうか、そんなふうに

期待したい自分がいた。

性懲りもなく往生際の悪い自分に

嫌気がさした。


さっき

病院に向かうタクシーの中で

もうどんなことも受け入れよう、

そう覚悟したじゃないか。


意識の奥深いところでは

自分でも本当はわかっているのに

まだまやかしに惑わされようと

しているのか私は。


だめだ。

息子の命より大事なものなんて

何ひとつないのだから。


「治療を最優先したいので入院します」


私は救急医にそう告げた。


救急医は私の目を見てひとつうなずいた。

「では血液内科の医師に引き継ぎます」