救急センターに着くと

受付で問診票を記入するように言われた。

「ここは無視していただいてかまいません」

受付の人が言う「ここ」を見ると

救急受診費用として7千円いただきます、

と書いてある。

うちは紹介状があるので除外されるらしい。

へぇー10年前はそんなことなかったのに、と

年月の経過を思った。

医療そのものも医療を取り巻く環境も

10年経つとずいぶん変わっている。


10年前、やはり息子を連れて

ここを訪れたことがあった。

小学生だった息子はある日

晩ごはんを食べたあと急に

おなかが痛い、痛い、とうめきだした。

「ぼく死んでしまうのかなあ」

と滅相もないことを言いだすので

あわてて救急センターに行ったのだ。

医師から

「晩ごはんは何を食べましたか」

などと聞かれレントゲンを撮ってもらった。

呼ばれて診察室に入ると

医師はレントゲンに写った写真を

指して言った。


「ここのところにたまっているのは便です」


息子は浣腸をしてもらって帰ってきた。


このことは

その後私と息子の間で何度も繰り返される

笑い話となっている。

今回もこのときみたいなオチがつく

笑い話だったらいいのに、そう思った。


救急センターの待ち合いにいる人は

よぼよぼしたお年寄りだったり

ぐったりした子ども、泣いてむずかっている

赤ちゃんなど具合が悪そうだな、と

わかる人ばかりだった。

そんな中

息子だけがしゃんと立って歩き

ふつうにしゃべり見た目は元気そのもので

「オレ、こんなとこにいていいの?」

そう言って笑っていた。


息子の名前が呼ばれた。

10年前とは違って

診察室に入るのは息子一人だ。

私は息子からリュックを渡され

預かるよ、と受け取った。

「重たっ、いったい何入ってるの?」


「パソコン」


10年前

病院に行くからと言って

パソコンを持って行く人は

どれだけいただろうか。

このときも10年という時の経過を思った。