演者: ほっとい亭お気楽
出囃子:ブルー・ライト・ヨコハマ
えー、皆さま。ようこそのお運びで。『ほっとい亭お気楽』と申します。こう見えてもわたくし、本業はシホウ関係。懲りないメイワク者たちと日々接触いたしております。これまでの有罪判決率は怒涛の100パーセント。ビックリでしょ? そのうち、一つくらいひっくり返すからね。
さて、ここは都内某所にあるテキトー道の総本部。道場は四畳半の和室。カベに掛け軸がありまして。下手な字で書いてあります。「木を見ず、森も見ず」
それを見て新入りの弟子が尋ねました。
「師匠、あれはどういう意味でしょうか」
「ハヤシを見るべし。木なんて、一本だけ見ても仕方ない。100本見るなんてできっこない。4・5本の林を見るのがテキトー」
「中庸が大切なんですね」
「そうでもない。時に誇張も必要だ。満開の桜を見てひと言求められたら?」
「キレイですね」
「それは最もチンプにして、ディレクターの期待を裏切る表現。テキトー道では『安土桃山時代を思い出します』と言う」
「デッカく言えばいいんですか」
「常にそうではない。ムーンウォークできますかと訊かれたら、『もちろん!』と答える。『毎朝、5センチやってます』と付け加えて」
弟子は聞いたことを一生懸命、メモしています。
「ゼッタイあり得ないことを言え。オレの上着はシャケの皮で仕立てた、人呼んでシャケット。クツと財布もシャケ皮。だから、オレが動物園行くと大変だよ。クマがひくひくする」
「へえ~」
「感心するなよ。ウソなんだから。キミもシャケで一つ言ってみな」
「ボクは…シャケの布団で寝てます」
「当たり前すぎる! もっとインパクトを。オホーツクの親戚にシャケがいますとか。シャケ型のヨットを買いました。塩ふいて、よく浮かびますとか」
結局、この日は夜中まで講釈が続きました。 お後がよろしいようで
人生劇場ディレクター 高野 晴夫