30話 当たり前 | love storys  ~17歳、私と君と。~

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どれだけ、時間が戻ればと思っただろう。

どれだけ、彼が愛おしいと思っただろう。

どれほど・・・

       私は君との未来を願っただろう。

好きだよ。


当たり前の生活にはそんな言葉は存在しない。


いつも通りの日常。何も変わらない毎日。


そんな中で、由紀に刺激を与えるものなんて何もない。


だから、直樹の電話は大きいものだ。唯一、由紀に刺激を与えるものなのだから。


夫婦ではもちろん、恋人ですら、いるのが当たり前になったら、相手に気持ちを伝えなくなる。


浩平から最後に、好きだよ。その言葉を聞いたのはいつだろうか。


もう、思い出すことができない。


「好き」その言葉は偉大だ。


相手の気持ちを確認できるし、不安を解消することができる。


言葉そのものが不完全であいまいであるのは分かっていても、だ。


行動よりも、不確かなそれは、安心させるためには十分すぎるもの。


恋の中で当たり前と思っていいことなど何もない。


手を繋ぐことも、キスすることも、セックスをすることも、そして傍にいることさえも。


当たり前と思っていると、別れも当たり前のようにやってきてしまう。


繋ぎとめたいのなら、当たり前と思わないこと。それが大事。そう思うんだ。


夫婦生活に慣れて、愛が薄れ、今の2人に残るのは真帆だけ。


恋や愛がなくても、真帆がいるから別れない。


新しい恋愛を始めようとしない。


楔になっている真帆。もし、真帆という存在がいなかったらどうなっていただろう。


繋ぎとめる楔は結婚という、脆い楔だけ。


少しでも力を加えれば外せる楔をどうするだろう?


何のためらいもなく、由紀と浩平は外すのだろうか。


家庭は何の問題はない。いたって普通で、どこにでもいるような家族。


だからこそ愛が薄い。付き合っていたころはしていた様々な愛の形をどれもすることがなくなったのだから。


人は恋や愛を探す生き物だ。


それがないと生きていけないというわけではないが、飢えることは当然ある。


2人の間に愛はない中で浩平は満足しているのだろうか。


この家庭や、生活、当たり前になっている今そのものに。


由紀は満足していない。


鈴が微かに震えて、音を出す。時計の針より、わずかに大きなその音は一瞬だけ、由紀の思考を停止させた。


聞こえなくなった鈴の音を頭の中でリピートさせながら、真帆の寝顔を見る。


(あなたがいるから、私はこの生活を続けられるんだよ)


頭をそっとなでる。少しでも力を入れたら、潰れてしまうのではないかと思うほどの頭の脆さ。それはまるで風船のようだ。


由紀は撫でるのをやめて、隣に寝転がる。


着信履歴がないケイタイを見ながら早く次の電話が来ないかな。


そう願いながら目を閉じた。


当たり前などと言う概念がなかったあの頃。


一つ一つ、すべてのデートが新鮮だったあの頃。


すべてが幸せだったと感じたあの頃。


時間は過去や未来に飛ぶことはない。


それが分かっていても、願わずにはいられない。


もう一度あの頃に・・・。って。




直樹からの電話は声が聞けて幸せなもの。


けれど、その幸せを体験すると、さらにその上を望んでしまう。


・・・会いたい。


夢とか虚像とか、声だけとかじゃなくて・・・


彼に会って、彼に触れたい・・・。


どんどん、虚しい想いが募ってく。


思い出が記憶となって、鮮明に浮かべが浮かぶほどに。





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