気付けば涙は引いていた。
「絶対」と言った直樹の一言でここまで感情が変化するとは・・・。
内心で冷笑した。
木で作られたベンチは一時間は座っているはずなのに、まだ慣れず、依然お尻が痛い。
貸し切り状態の公園には、誰かが入ってくる気配もなく、遠くから聞こえる車のエンジン音以外はなにも聞こえない。
砂場やブランコなど、子供たちが楽しめそうな空間が広がるこの公園。
公園自体はなにも変わっていないのに、空の明るさだけでそこにいる人数は変わる。
昼や夕方は賑わい、夜は閑散として。常に出入りが可能な公園が活用される時間帯は限定されている。
ただ、冬になると、夜でも人がやってくる。
夏の方が夜は出歩きやすい。熱くも寒くもない適度な温度は、外にいても不快感を煽らないからだ。
逆に冬は、夏の暑さが嘘のような寒さが心身を襲う。
外に出るだけで体が震えて、家に引き返したくなる。風が吹くたびに、一瞬立ち止まり、進みだすことさえ躊躇させる。
そんな季節で、さらに夜という極寒に近い中、なぜこの公園に現れるかと言うと、イルミネーションが燦然と光り輝いているからだ。
そこまで広くはないこの公園だが、遊具や木々につけられた光の数々は神秘的で、寒さから家路を急ぐ人たちを立ち止まらせる。
わざわざ、普段はそこを通らないのにもかかわらず、遠周りをしてイルミネーションを見て帰る人もたくさんだ。
三色に輝くブランコや白い光一色で照らされたシーソーや、色々見るべきものはあるけれど、一番眼を引くのが、光るサンタクロースだ。
ワイヤーで模られたサンタクロース。そのワイヤーに電球をつけていき、他のワイヤーで木々の間に吊るす。
すると、ぱっと見で浮いているんじゃないかと思ってしまうぐらいの完成度のサンタクロースができる。
冬は幻想的な空間に変わるこの公園。それを、直樹は知らない。
だから、冬にこの公園に連れてきて、驚かしたいな。そう思う。
恋人と見たことがない地元の自慢のイルミネーション。
1人で見たり、友達と見たりするのとは違う景色がそこに広がっていそうな気がする。
一見、何も変わっていなさそうでも。
この公園にしろ、都会などのイルミネーションにしろ、由紀はまだイルミネーションと言うものを恋人と見たことがない。
当然といえば当然だ。由紀の初めての恋人がここにいる直樹なのだから。
だからこそ見たいのだ。初恋の相手で、初めての彼氏である直樹と。
一年の流れの中で、夏は特にイベントはないけれど、冬にはクリスマスというイベントがある。
誕生日よりも恋人と一緒にいることを望む日だ。
イヴに会うのもありだし、クリスマスに会うのもありだし。
できたら両方がいい。
クリスマスデートに憧れる。綺麗な街並みを見ながら、プレゼントを交換したりしてみたい。
そして、できれば制服がいい。世間からの縛りがある格好だが、今だからできる格好でもある。
二年後にはできなくなる今の姿を存分に使いたい。
幻想を抱いていたが、ふと我に帰る。
まだ半年も先のこと。まだ考えるのは早いか。ふと、そう思いながら内心肩をすくめて苦笑した。
先じゃなくて、今を見ないといけない。
今後もずっと付き合っていくため、由紀は一つの提案をした。
「ねぇねぇ、名前で呼ぶことにしない?」
苗字で呼び合っていた関係。付き合う以前でそれが定着したせいか、なかなか外せなくなっていて、恋人になった今でも『山口さん』と『佐藤君』だった。
そんな関係から一歩進んで、より恋人らしくするために・・・。
言わなくても、自然に変わっていくものなのだと言われればそれまでなのだが、恋に奥手な二人だ。
きっかけでもない限り、呼び方は変わらない。そんな気がしたんだ。
「名前?俺は由紀さんって呼ぶってこと?」
「なんで『さん』つけるの?由紀がいい」
「そっか。じゃあ、そっちは俺のことなんて呼ぶの?」
「直樹君」
「語尾についてるじゃん」
「私はいいのー!」
これが理想の呼び方なんだから。由紀はそう続けた。
「ふ~ん・・・」
少し納得が言ってない直樹に、由紀は「直樹君」
上目遣いで、少し照れながら言った。
思った以上に、名前で呼ぶのは恥ずかしい。
呼ばれた直樹も顔を赤くする。そして、なんか新鮮な気がする。照れ隠しに腕で口元を押さえながらそう言った。
「たしかに、新鮮だよね。じゃあ、直樹君も、私のこと呼んで?」
「う~ん・・・」
直樹は少し悩んだ後「帰った後電話するから、その時じゃなだめ?」
どれだけ恥ずかしいのだろうか。由紀は言えたというのに。
でも、いいか。初めて呼ばれるのが電話越しに耳元でってのもいいかもしれない。
「わかった」
由紀は頷いた後、電話楽しみにしてる。小悪魔のような笑みを浮かべながらそう言った。
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最近は寒いですね。寒いですね。
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