「ほんとに、ごめんな」
電話での一言目。彼が口にしたのは心からの改悛の言葉。
うん。聞いたよ。10年前も。
心の中でそう呟いた後、あの時と同じ言葉を紡ぐ。
「知らなかったんだし大丈夫だよ」
今日は誕生日。あの時の由紀はこの日で17歳で、今の由紀は今日で27歳を迎えた。
時が経つのは早いな。ありふれたセリフを思わず呟きたくなる。
久しぶりに食べたケーキは、高い店で買ったケーキらしく、とても美味しかった。
小さく分けられたケーキたちは宝石のように輝いて、久々に浩平の前で満面の笑みを浮かべたっけ。
表面上だけの笑顔だけなら、何度も浩平の前でしている。
けれど、本当の笑みはなかった。
まあ、どちらにせよ変わらない。浩平は気づかないから。
それが本当の笑みでも表面上の笑顔でも。
そのケーキを食べながら、真帆も笑顔で祝ってくれたし、浩平もプレゼントをくれたし。
小さな箱に入ったプレゼントの中身は腕時計だった。
可愛らしいピンクのベルトにアナログ式のシンプルなデザイン。
使いやすさを重視している自分にとっては理想的な腕時計だった。
さすがは何年も一緒にいるだけあって由紀の好みは分かっている。
「ありがとう」
今までもらったプレゼントで二番目に嬉しい。その言葉はグラスに入った麦茶でそっと流しこんで、久しぶりに幸せな中、由紀の誕生日は終わりを迎えようとしていた。
深夜11時。真帆が眠りについて、浩平がお風呂に入っている時に彼からの電話が来たんだ。
「いや・・・でも・・・。ホント最悪・・・」
嘆息が聞こえた。
別に、気にしてないんだけどな。それは今だからという訳じゃなくて、あの時も。
そりゃあ、少し寂しさはあったけど、知らなくて当然だし、当時欲しかったものは君から貰ったし。
「一緒にいてくれただけでも、私は嬉しかったよ」
10年前のことを思い返しながら由紀は言った。
「夜だけじゃんか。ずっと一緒にいたかったなぁ」
電話越しにため息が漏れる。
「『直樹君』の誕生日に一緒にいられたら私は十分だよ」
「う~ん・・・。あと、それで呼ばれると照れるんだけど」
「苗字より、こっちの方が自然じゃない?恋人なんだから」
「そうだけどさ・・・」
照れる彼。誕生日の夜、少し積極的になっていた私は確か・・・。
「私のこと、呼んで?」
子供がお菓子を親におねだりするかのような幼い声で、甘くそう呟いたんだ。
これが、自分の精一杯の色気で可愛さだった。
10年前と今と、どっちがおねだりを上手く出来ただろうか。
さすがに・・・あの時には勝てているだろう。
恋というものをほとんど知らなかった「私」には。
もっとも、今の由紀が本当の恋が何なのか分かっているかは定かではないのだが。
「えー・・・」
彼は少し渋った。
呼ばれることも恥ずかしいし、呼ぶことも恥ずかしいのだろう。
流れで言うのはできても、改めて言われると難しいのかもしれない。
怜悧でカッコいい君が台無しだ。今の君には隙がありすぎる。
もちろん、10年前の自分は名前で呼ぶことも恥ずかしかったはずだけど、今となれば造作もない。
あの頃と今は違う。
だから、今の由紀と直樹は対等なところにはいない。由紀が断然上にいる。
「お願い」
由紀は執拗に要求する。
それは、あの頃をなぞっているということもあるのだが、聞きたい。その想いがあるから。
今、耳元で自分の名前を読んでほしいから。
『由紀』
今も昔も変わらない、その名前を・・・。
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そういえば、昨日悪の経典観てきました。
15禁の理由がなんとなくわかった気がしますww