気づけば、直樹との電話は特別なものではなく、当たり前のものになっていた。
電話がかかってくる回数が増えることにより、この非現実的な現象がどのタイミングで起こるかがわかった。
10年前に電話がかかってきた日、時間。それにリンクして、まったく同じタイミングに電話が来るようになっているのだ。
たとえば、7月23日の10時に電話が来ていたとする。すると、10年後である今の7月23日の10時に電話が来る。みたいな。
さすがにいつ電話をしたとか正確な時間は覚えてはいないが、かなり頻繁にしていたのだけは覚えている。
毎回、直樹からの発信で。
10年前の二人は隣のクラスで毎日は話せなかったので、電話で声を聴けることが何より嬉しかった。
電話をすることで、彼女でいられていると心配性な自分の不安を解消できたし、より直樹を好きになることができた。
もっとも、付き合っているのを隠したりしなければ、隣のクラスまで行って堂々と彼と話すこともできたのだが・・・。
でも、隠すことは二人とも賛成だったので、そんな我儘も言えなかった。
今となっては、なぜそんなばれることを恐れていたのだろう、と不思議に思う。
付き合っているカップルはたくさんいたし、別に二人だけが注目の的になることもない。
からかわれるのが嫌。それだけの理由で学校では他人のふりをして。ものすごくもったいないことだと思う。
彼と共有できる時間をみすみす自分で逃していたのだから。
電話が楽しかったから、会えなくてもその時は満足していたのだけれど。
今考えてみれば、それはミスだったのだと思う。
そんな電話の中で、気がかりになっていたことを聞いたことがある。
「ねぇ、こうやって電話をしてくれるのは嬉しいんだけどさ、電話代とかって大丈夫なの?」
そんな野暮な質問を。
「全然大丈夫だよ。指定通話?みたいなのにしてあるから」
「なにそれ?」
携帯電話の知識は全くないため、何を言っているのかわからない。
「その相手となら、いくら電話しても値段が変わらない、みたいなやつ」
どうやら直樹にもその知識はあまりないらしく、回答がおぼろげだ。
「そんなのあるんだ?」
「あるんだよ。それにした」
由紀限定で。直樹はそう続けた。
「私のために?」
「由紀のために」
由紀は特別だ。そう言われたようで、胸が熱くなる。
「ありがとう」
「うん。俺が声聞きたいってのもあるから、別にいいんだけどね」
その言葉に想われている、そう実感できる。
幸せなひと時。これがずっと続けばいいな。淡い期待を空に投げる。
「これからもよろしくね」
「急になんだよ?」
「なんとなく。だめ?」
「だめじゃないよ。こちらこそよろしく」
直後、電話越しにあくびが漏れる声が聞こえた。
「眠い?」
「う~ん・・・そうだね。さっきまでバイトだったから」
「そっか。お疲れ様」
彼は、飲食店でバイトをしている。始めたのは最近のことらしい。
由紀と付き合ってすぐ。会う時間も減るのに、何でバイトを始めたのか。
気になって直樹に聞いてみたけれど、言わないよ。何事もないかのように、そう返されたっけ。
隠し事をしない関係。そんなものを望んでいるわけではない。
一つや二つ、恋人に言えないこともあるだろう。
由紀にだって、言いたくないこともあるし、お互い様だ。
けれど、バイトに関してはどうなのだろう?そんな言いづらいことがあるように思えない。
不安が募っていく。
なんでこんな些細なことで隠し事をするんだろうな・・・。
小さな不満が積もっていく。
すいません。
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次回は金曜日です。