試験官の登録はすんなりと終わって、勤務する日付もすんなりと決まった。
そして、今日がバイトの当日。
試験予定に書かれた模試はすべてセンター対策のものだった。
「今の俺が受けたらほとんど解けないだろうな」
大学二年の夏休み。もう現役からは遠く離れている。
大学入試から、二年半も経ったんだな。そんな風に思う。
時の流れは驚くほど速い。
中学生になったな、なんて思っていたら、すぐに高校生になっていて。
気づけば、間近にセンター試験が迫っていて。
そして、今は大学生という中で堕落した生活を送り、就職という人生最大の壁を少しずつ、現実的にとらえようとしている。
入学式以来だろうか、久しぶりに悠太はスーツを着た。
少しだけ茶色が入った髪は黒一色のスーツだと目立つ。
私服を着て学校にいるときは、全く目立つことなんてないのに。
髪にワックスをつけながら、綾音とした会話を思い出す。
「私、茶髪とか嫌いだったんだけどさ、びっくりした」
「なにが?」
「全然、気にならない。むしろ、それもまたいいかもなんて思ったよ」
おとなしい笑みを浮かべながら綾音は言った。
「よかった。否定されるかと思った」
「いやいや。多分、好きな人なら、すごーく似合わないとかじゃない限り、よく見えちゃうんだろうね」
そんな会話をした後、綾音は茶髪の悠太君も好きだよ。
顔を赤らめながら言った。
それから、悠太の髪はずっと茶色いまま。
・・・黒にしようかな。
悠太は極力、綾音との思い出を忘れようとしていた。
思い出せば、また比較をしてしまうから。
絶対に、そこには幸せはない。
記憶は完全に消えるものじゃない。良い思い出も悪い思い出も、記憶の中に居続ける。
だから、檻に鍵をかけて沈めればいい。
思い出すためのたくさんの鍵を全部捨てればいいんだ。
ネクタイを締めて、かばんを持って、悠太は家を出た。
燦々と照り付ける太陽が、日向に出るのを躊躇させる。
けれども、そんなことでいちいち立ち止まるわけにもいかない。
悠太は歩きだして、駅に向かう。駅に着き、30分ほど電車に揺られて、都会に出る。
ケイタイを使いながら、目的地を見つけ、中に入った。クーラーが効いているのか、急激に体が冷えた。
悠太は手筈通りの準備を終えて、あとは模試を受ける生徒たちを待つだけとなった。
初めての仕事で少し緊張する。
何か聞かれたらどう対応すればいいのか、問題が発生したらどうするのか。
心配性の悠太は、こういう時、気楽に構えてられる人がうらやましいと思う。
試験の時間が近付くにつれて、ぞくぞくと生徒が入ってくる。
その生徒たちも様々で、席に着くなり、参考書を開いたり、あくびをしながらケイタイを見たり。
自分だったらどうしているだろうか。
きっと、頭に入りもしないのに、参考書を読んでいるだろうな。
想像の中で、ダメな自分を想像して内心肩をすくめて苦笑した。
時間になり、試験が開始する。この時点で空席が3つあった。
ちゃんと、席は埋まるのだろうか。そんなことを考えながら教室内を一望していると、ドアがゆっくりと開いた。
どうやら、三人のうちの一人の遅刻者が来たらしい。
悠太は時計を見る。
5分オーバーか。まあ、遅刻者にしては優等生だな。
もっとも、遅刻者を優等という括りにしていいのかは問題ではあるが。
「すみません、遅れました」
小声で、女の子は言った。
女の子で遅刻って珍しいな。悠太には、女の子はしっかりしているという先入観があった。
悠太は近付き、顔をあげて、その子の顔を見る。
「え・・・」
悠太は絶句した。そこにいたのは・・・綾音だった。
綾音も悠太同様、驚きの表情を浮かべている。
なんでここに?
その疑問を投げかける言葉を飲み込む。忘れてはいけない。自分は試験監督だ。
悠太は綾音を席に誘導する。
綾音を席に座らせた後、悠太の頭の中は試験官として全うできるかということは消え去り、綾音がここにいるという事に対する動揺でいっぱいになっていた。
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眠いなぁww
今日で夏期講習は一旦終わります。
ストックためたり、他の小説書いたり・・・いろいろやることもありつつ・・・
頑張ろう。
次回は明後日の水曜日です。