ホテルに入る数時間前。
私たちはとあるレストランで食事をとっていた。
「最近仕事はどうなんだい?奈々ちゃん」
高そうなステーキを当たり前のように食べながら金平さんは私に聞いた。
「おかげさまで。たくさんの仕事をいただいております」
「それはよかった。でも、どれもこれも小さな仕事ばかりなんだろ?」
ナイフとフォークが皿に当たり、響く嫌な音。
甲高く、耳障りだった。
けど、それ以上に、この人の声、喋り方のほうがよっぽど不快だが。
「そう・・・ですね」
「で、さっきの電話でのことなんだが・・・」
「はい」
「ここにこうしてきてくれたということは、出る気はあるんだろ?」
「もちろんです」
「その返事を聞いて安心したよ。やはり奈々ちゃんは利口だ」
「せっかくいただいたお話ですので」
私は感情のない笑みを浮かべる。
まったく楽しくない食事。会話。
この業界に入ってから何度目だろう?
ただの相手のご機嫌とり。
私自身にメリットは当然あるけど・・・決していいものじゃない。
「で、奈々ちゃん。この後予定は入れてないよね?」
金平さんは、ナイフを皿の上に置いて、空いた右手で私の手を触った。
そして、舐めまわすように、ゆっくり指を動かして、触れている感触を楽しんでいた。
触れられた瞬間、鳥肌が立った。
けれど、手を引くことはできない。
引いてしまえば、相手を不快にさせてしまう。
もしかしたら、映画の話すらなくなるかもしれない。
「予定ですか?もちろんないですよ」
「それはよかった。じゃあ、もうすぐ出ようか?」
「はい。わかりました」
そうして、私たちはラブホテルへ向かった。
今回入ったところは、間違いなく前回よりも良いところだった。
高そうな外装、内装。
スペースもめちゃくちゃ広いし、なぜかカラオケついてるし。
「ふぅ・・・」
金平さんはネクタイをゆるめながらベッドに腰掛けた。
「お疲れですか?」
「ああ。今日は映画のことで立て込んでいたからね」
「そうなんですか」
「明日も忙しいから、大変なんだよ」
・・・大方、私はそのための息抜きってところか。
「頑張ってくださいね」
「ああ。奈々ちゃんみたいな可愛い子に言われると、頑張れる気になるよ」
笑いながら金平さんは言った。
「ありがとうございます」
機械的な私の対応。
感情は入れていない。
けど、入れているように見せかけている。
無愛想じゃこの世界はやっていけない。
・・・16歳で芸能界の裏を語る私。
なんだか私じゃないみたいだ。
数年前はただの平凡な女だったのに。
「じゃあ、私は先にシャワーを浴びてくるから、奈々ちゃんは休んでて」
「わかりました」
金平さんは、シャワールームへ消える。
私は、それを確認した後で、携帯を手にとり、開いた。
慣れた手つきで、画像を探し、私はそれをボケっと眺めた。
その画像は、私と玲の2人で撮ったプリクラの写真。
満面の笑みの二人を前にして私は
「なにしてんだろ・・・」
消えそうな声でそう呟いた。
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