「由美!!」
君はそう言って私のもとに走ってくる。
「ゆ・・・う・・・き・・・く・・・ん」
私の瞳からはさっきとは違う涙があふれ出す。
でも、私はその涙を必死に止めようとする。
「裕樹君・・・なんでここにいるの?」
「由美に会いたかった・・・。ここにいけば・・・また会えるかなって・・・」
彼は息を切らしながらそう話す。
「ありがとう・・・」
私は笑顔でそう返した。
その時、彼が私の左腕を見る。
「なんだよ・・・それ・・・」
彼の言葉が震える。
「ああ・・・これ?」
私は見せびらかすように裕樹君に左腕をみせた。
もう、痛みはあまりない。
というより、慣れただけかもしれない。
「私・・・もう死のうかなって・・・けど、これなかなか死ねないんだよね。出血多量で死ぬらしいから・・・。ちゃんと調べればよかったかな?」
私はあえて気丈に振る舞った。
「な・・・んで?」
「なんでもだよ・・・」
「まさか・・・蓮のことか?」
「へぇ・・・」
私は驚く。そこまで知ってるんだ。
「なんで知ってるの?」
「・・・それは、後で全部話すよ。とりあえず、救急車呼ばないと・・・」
彼は携帯電話を取り出した。
「やめて!!」
私は大声で叫ぶ。
「え・・・?」
彼はよっぽど驚いたのか、その携帯を足元に落とした。
「私・・・もう生きたくないんだよ・・・。もう疲れたんだ・・・。お願いだから・・・死なせて?」
「由美・・・なんで、そんな蓮のことを引きずるんだ・・・?たかが、学生の恋愛だろ?死ぬほどのことじゃ・・・」
その言葉に少しイラッとくる。
「・・・そんなこと言うんだ。裕樹君の恋愛はそんなに軽いものだったんだね。私との恋愛も。『たかが』なんてレベルじゃないんだよ。私にとっては・・・」
私の手からかなり大量の血が流れている。
直感でわかる。
もうすぐ・・・かな・・・。
「そうじゃないよ。由美との恋愛はすごい大切なものだった」
「矛盾してるよ・・・」
「じゃあ、単純に言う」
彼は真剣な表情で私を見た。
なんだろう・・・。
「由美に死んでほしくないんだ・・・」
裕樹君は私を抱きしめる。
あったかい・・・。
久しぶりに感じた・・・。
裕樹君に温もり・・・。
ここで、羽を休めればいい。
でも・・・さ。
もう・・・決意は鈍らない。
私は裕樹君から離れる。
「もう・・・遅いんだよ」
「由美・・・」
彼が近寄ってこようとする。
「こないで!!お願いだから・・・」
私は彼から離れる。
君がこれ以上近づいたら・・・私は・・・。
早く死なないと・・・私の心が変わってしまう。
だから・・・。
私はもう一度カッターを取り出したんだ。
そのカッターを左手首に向けてもう一度振り下ろす。
バシュ!!
大量の血が飛び散る。
これで、死ねる・・・。
けど・・・おかしい。
痛くない・・・。
痛みを感じないんだ。
その理由をすぐ察した。
刺したのは、裕樹君の手の甲。
「裕樹君・・・」
「由美・・・お願いだから・・・死なないで」
彼は私にキスをした。
修学旅行以来のキス。
「僕は由美といたい」
自分の心に嘘はつけないなぁ・・・。
今の君の言葉を聞いて・・・思ったよ。
いや・・・君に会ってからもう勘づいてたんだけど・・・。
やっぱり、裕樹君が好きだ。
『私も裕樹君といたい・・・』
その言葉を言おうとした瞬間、見えていた景色が真っ暗になる。
もう・・・血が足りない。
私はそのまま倒れ込み識を失った。
雪の上で血を流しながら・・・。