~side裕樹~
由美が僕に背を向けて歩き出す。
僕はその背中に「ばいばい」と呟く。
けど、その言葉は振り向いてほしくて言ったわけじゃない。
ただ・・・返事を返しただけ・・・。
僕は彼女の背中を見送るのをやめて、
灯台の方へ歩いていく。
昼間に由美と蓮がキスをしていた場所だ。
灯台はひっそりと静まり返って何の物音も聞こえない。
僕は空を見上げた。
そこは漆黒の闇。
「星は・・・見えないな・・・」
僕がそうつぶやいたと同時に、顔に冷たい滴があたった。
雨が降ってきたらしい。
雨は次第に強さを増ししていき、気付いたら大雨となる。
全身が冷える。
その時誰かの泣き声が聞こえた。
これはきっと由美の声。
「いかなくていいの?」
後ろから声が聞こえて僕は思わず振り返る。
・・・そこにいたのは楓。
制服姿で全身がずぶ濡れだった。
「なんでここに・・・?」
僕は当然の疑問を楓に投げかけた。
この時間にいるはずがないのだから・・・。
「いかなくていいの?」
楓は僕の質問に答えることなく、もう一度聞いてきた。
「どこにだよ・・・」
「あそこに・・・」
楓はさっきまで僕らがいた場所を差す。
最北端のあの場所・・・。
「由美が泣いてるよ・・・」
「その涙を止める資格は僕にはないよ・・・」
僕は俯く。
「その選択に後悔はない?」
楓の声が急に変わる。
いつもよりずっと低く、重みのある声。
僕は少したじろくが
「後悔は・・・ないよ。これが僕らの決めた最善の選択肢だから・・・」
大雨には不釣り合いな笑顔で言った。
すると楓の真剣な表情が崩れる。
「そっか。なら・・・夏帆と幸せに・・・ね?」
そう言って僕の額に手を置く。
そして・・・
「おやすみ・・・」
楓のその言葉を聞いた途端、僕の意識が途切れた・・・。
***************
気がつくと、そこはベッドの上だった。
まさか・・・あれは全部夢!?
僕は無意識のうちに携帯を開いて、アドレス帳を見る。
けど・・・そこには『佐伯 由美』の名前はなかった。
もう・・・由美と会うことはないんだ・・・。
永遠に・・・。