授業が終わると、教室が少し騒がしくなる。
僕はその中で無意識のうちに夏帆の姿を目で追っていた。
夏帆は楽しそうに隼人と話していた。
もし、僕が昔のことを話したら、
夏帆が今、隼人に見せているあの笑顔は消えるのだろうか・・・?
まあ、そもそも思い出してくれる可能性が低いが。
なんたって、あの家は大金持ち。
そこの資金を使ってでもきっと夏帆の記憶は戻らなかったんだから。
「裕樹君」
楓が僕を呼ぶ声がして隣を見た。
「ん・・・?」
「いや。何をぼーっと見てるのかなって」
「何も見てないよ」
「そっかぁ。ねぇ、裕樹君って彼女いるの?」
楓が急に突拍子もないことを言ってきた。
「は・・・?なんで?」
「べっつにぃ~。ただ裕樹君ぐらい顔がいいと彼女っているのかなってさ」
「ん~・・・」
僕は少し返答に迷う。
実際、確かに彼女はいる。
大好きな人が。
けど、ここでいるって言ってもクラスとかで変なうわさが流れるかもしれない。
それに、夏帆の耳にその名前が入ったらややっこしくなりそうな気がする。
それに、クラス中で目立っても嫌だしな・・・。
「いないかな~」
僕がそう言うと、楓の顔が笑顔になった。
けど、まだ疑ってるようで
「ほんとに・・・?」
と聞いてくる。
「うん。いないよ。けど、なんで?」
「いや、特別意味はないよ」
楓は上機嫌で次の授業の準備を始める。
こんな単純な一言で、僕はたくさんの人を傷つけてしまうなんて・・・
思ってもみなかったんだ・・・。