9今から思えば、最初の呼吸器内科医とは合わなかったと思います。ずっとパソコンに向かい合いこちらを見ないのは、現代の医者に共通した事なので問題ありません。肺癌の事はちゃんと勉強したの?から始まった二人の会話はかみ合いませんでした。あなたは肺癌、肺腺癌。肺腺癌は癌の種類です。それだけしか言わない医師に勉強が足らない私達は何も聞く事が出来ません。で、どうしますか、と聞かれます。手術、放射線、抗癌剤、どれでも良いですよと追い詰められるのですが、「手術でお願いします」と答えた時だけこちらを振り向き、私もそれが良いと思いますと返事されました。

 

「癌は進行が速いタイプでしょうか」と漸く質問する事が出来たのですが、答えは早いやつもいるし、そうでないのもいます、それから遺伝子検査ですが、検査センターの方からもう少し粘ってみますと言われましたが断っておきました、それで良いですね?私は意味が分かっていなかったので「はい」とだけ答えました。後でその意味が分かり「何故もっと調べてくれなかったのか」医師が勝手に「もう粘らなくても良い」と答えたのが頭に来てしまいました。それは手術後の事です。

 

都内の大手大学病院からのサポートで来ていた医師だった為でしょうか、こんな田舎に派遣されて迷惑だと思っていたのでしょうか。でも3年が普通のローテーションなので、半年後に病院を去る事になりました。私は別の病院に移りますので、後はこの先生にお任せしましたと、メガネ先生を紹介してくれました。学生の様に若くて線が細いメガネ先生は助手だと思っていたので、本当に大丈夫なのだろうかと心配でした。兎に角私は前任の医師が苦手でしたが、一応椅子から立ち上がり妻と二人で深々と頭を下げ「これまで有難う御座いました」とお礼を言いました。パソコンを見ていた医師は漸く立ち上がっている私達に気づき、慌てて自分も立ち上がり、いやいや、こちらこそ。。。 必ず良くなる事を信じていますと暖かい言葉を貰いました。

 

結局人を変える事は出来ません。どんなに合わない医師とも、同僚とも、仲間とも、こちらの誠意を見せるしか相手は動きません。私は今でも、初めて正面から見た医師の顔と、「信じています」の言葉を忘れる事が出来ません。