【「遺伝子-教育経済学」の構想】(難文)
桜井芳生 (遺伝子社会学 文化社会学) 著作権保持 ver.200306
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わたしは、現代遺伝子科学理論の現代社会科学理論への理論的適用としての「遺伝子-教育経済学の構想」している。
説明しよう。いうまでなく、英語圏では、エビデンスにもとづいた「教育経済学」が発展著しい。ランダム化比較試験を頂点とするエビデンスヒエラルキーのもとで、ランダム化比較試験実験を「理想像」とする エビデンスベースドの 教育経済学であり、中室の日本語文献などを主として日本語圏にも大きな影響力をもちつつある。
しかし、すくなくとも現在の日本の状況では、ランダム化比較試験を現実社会でおこなうことは実現性がおおきくない。その理由のさいだいのものは、「人間実験への「倫理的?」忌避感覚」とそれに密接に関連した「政策介入に当事者が反応してしまうこと」である。
すなわち、現今の日本では、ある教育政策が教育アウトカムに正の因果効果をもつと「仮説」して、ランダムに介入群を措定しただけで、
「1.ほうっておかれた対照群の生徒たちはかわいそうだ、という倫理的?反感」
「2.対照群の親子たちが、正の因果効果の恩恵を期待して、みずからかってに介入群と同様にしてしまう」
という二点が生じがちだろう。
こうして、「実験」は統制されなくなってしまう。このような難点をまえにして、遺伝子-社会科学はなにか貢献することができるだろうか。わたしは、貢献できることがある、とかんがえる。
すなわち、遺伝子科学でもはや通常化した「メンデリアンランダマイゼーションによる自然実験」の手法をそのまま応用することができるのである。
(図は、メンデリアンランダマイゼーション(左)とランダム化比較試験(右)の対比https://link.springer.com/article/10.1007/s00439-007-0448-6 より)
メンデリアンランダマイゼーションとは、メンデルによって洞察され現代遺伝科学で承認されている、「遺伝するさいの、減数分裂ののちの受精による 2倍体化は ランダムに生ずる」という現象を利用するものである。
表現型の一方(Aとしよう)を「介入(群)」、他方(Gとしよう)を「対照(群)」と解釈できるような、そのようなあるひとつの対立遺伝子を利用するわけである。
こうして、現代教育経済学におけるランダム化比較試験と論理的におなじことができるわけである。
このようなアプローチを「遺伝子-教育経済学」とよぶことができるだろう。
香川によるとデンマークの研究によって、DHAを体内で合成するさいにそれを容易にするか困難にするかにかかわるデルタ5脂肪酸不飽和化酵素にかかわる遺伝子多型のタイプの違いによって子どもの学業成績の注意力と読み取り点数に差が現れたという。ここから、DHAが学力に因果効果をもっているとかんがえることができる。
遺伝子-教育経済学が試みられるべきトピックはいまだ無数にあると期待できる。このように遺伝子-教育経済学は、遺伝において、2倍体化がおきるさいのメンデル的な完全にランダムなメカニズムを利用した(通常の「自然実験」よりも完全にランダムな)自然実験である。
したがって、上記の「日本における教育経済学の難点」を完全に回避することができる。「遺伝子-教育経済学」は豊穣な可能性をもった、試みるにあたいする研究方途であると思われる。
文献
「学力」の経済学 (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2015/6/18
中室 牧子 (著)
香川 靖雄 まるっと先取り! Dr.香川の栄養watch(第40回)メンデルランダム化解析法が証明した 遺伝子レベルでの正しい食事とは? 栄養と料理 女子栄養大学出版部 2019-04 85 4 106-109 https://ci.nii.ac.jp/naid/40021836063/
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桜井 芳生
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