こんばんは。よしみね努です。

懐かしい写真を1つ。



今日は少し長くなりますが、沖縄県消防防災ヘリコプター導入について、考えていることをお伝えしたいと思います。



なお、以下は、あくまでも私見です!


  平成30年3月に沖縄県が発表した、消防防災ヘリコプター調査検討委員会による「沖縄県消防防災ヘリコプター投入に係る調査検討報告書(以下、報告書)」の内容には、この案のまま防災ヘリを導入することは、県民にとって本当に良いことであるかという疑問が残る部分がある。


 報告書において導入のための検討課題は、「機体・施設・人員体制・経費・規則等・その他・スケジュール」が挙げられている。この中で、「機体」「人員体制」「経費」に焦点を当て、県の提案の問題点を指摘し、この解決方法を提案する。

 現在導入しようとしている防災ヘリが、沖縄県にとってより良いものとなるよう、ヘリコプターパイロットの立場から、報告書を解説したい。

 


導入のための検討課題

1. 機体に関すること

 報告書には機体に関して、「ヘリ機体と資機材の調達」のために「機体の能力」と「機数やその配置に関すること」が検討の課題として挙げられているが、沖縄県は島嶼県であり、機体の選定をあやまると、運航範囲と現場活動時間に制限がかかり、離島地域ではそれが致命的な初動の遅れに繋がると考える。

 

 しかし、「運航範囲については、本島及び周辺離島を基本的な守備範囲」と記載されており、本島周辺でしか活動できない機体を想定している。地震調査研究推進本部が発表した資料では沖縄県の大部分で今後30年以内に震度6弱以上の地震が起きる可能性は6−26%と非常に高い確率となっているのであるから、1機目こそ、沖縄県全体をカバーできる機体を選定すべき。その後に、複数機の導入を検討する方が合理的である。

 また、他県の活動実績を元に機種を選定するという考え方も、そもそも導入済みで、活動実績を積み上げている他都道府県での小型防災ヘリは、隣県から応援がもらえる状況にあるからであって、沖縄では隣県の応援を受けられないことを前提に機体を選定すべきなのである。

 

 人口密度の偏りが大きい沖縄県では、大規模災害時の救助活動は広範囲になる。物資輸送も、できるだけ多くの物資を積んで被災地に向かう必要がある。人や物資を運ぶ時、小型の機体と大型の機体で運ぶのとでは余剰馬力の有無が問題となる。これは物資輸送だけではなく、上空からの被害状況の観察においても、できるだけ遠くまで飛び、できるだけ多くの情報を集めるために滞在を長くするための機体という視点が不可欠であると考える。

 

県が選定を考えている可能性のある、H145※1やAW169等のヘリコプターは余剰馬力の少ない機体であり、H 145と同型機であるBK117(神奈川県ドクターヘリ)が余剰馬力の無さがうかがえるハードランディングした事実も検討の際には考慮すべきである。

 


2. 人員体制に関すること

 報告書では「航空隊員の市町村からの派遣」「運航要員の民間委託」が調査結果から提案されており、このための「市町村合意」と「消防職員派遣」がさらなる検討が必要な課題とされている。

 

 現時点で、沖縄県全体で消防職員は不足しており、人員の派遣はかなりの困難を伴う。また、その隊員の人件費は現時点では市町村の負担と考えられており、同じ防災ヘリの乗員であるのにその給与格差が生じる可能性がある。

 乗員数についても、埼玉県の防災ヘリは自隊の事故後、見張り要員搭乗数を増やしている。沖縄県ではその地域特性から航続距離が長くなるため、搭乗要員数はさらなる検討が必要であろう。

 

 また、「運航要員の確保を民間委託する」方向で検討されているが、これが安定的で安全な運航に繋がるかどうかという視点での検討が欠けている。

 過日、群馬県防災ヘリコプターが墜落し、乗員9名全員が死亡するという大変痛ましい事故が発生し、群馬県では運航受託している航空会社に安全管理を任せるのではなく、県の職員としてしっかり安全管理ができる自主運航に切り替える動きも出ている。

 安全管理ができる体制づくりを民間企業に委託して実行するためには、規模の小さな航空会社では不可能である。一方で沖縄県の防災ヘリコプターの予算規模で大手航空会社が運航要員を派遣するメリットを提示することも困難である(経費の項で詳しく後述する)。

 


 運航形態に関しては、安全運航と言う視点で考えればもっとも良いのは自主運航である。民間委託すれば、転勤や短期出張スタッフによる運航となり、操縦士を始めとした運航要員の質の確保や操縦士二人体制の構築など、運航開始後に安全性を高めるための取り組みを行うとランニング費用が増えていくことになる。

 経験値の高い大手航空会社に在籍経験のある操縦士・整備士・運航管理官を雇用し、AMRM訓練等の訓練を充実し、後進スタッフの招聘や育成を行わせることは、沖縄県民の雇用増加に繋がり、安定的な運航に寄与すると考えられる。

 

3. 経費に関すること

 初期費用とランニング費用、負担方法と財源が課題であるが、隊員人件費は現時点では市町村の負担と考えられており、同じ防災ヘリの乗員であるのにその給与格差が生じる可能性があること。また、県と市町村の負担割合が人口比とメリットを受けるかどうかの視点で検討され尽くしたとは言いがたい状況にある。

 

 また、防災ヘリ運航の民間委託による費用についての検討があってしかるべきなのに、報告書では、ドクターヘリの運航費用2億円を参考に算出されており、自主運航を検討する場合の人件費や教育訓練費が高くなるという根拠が希薄である。

 

 

最後に、報告書に関しての問題点もお伝えしておく。

 報告書をまとめた「沖縄県消防防災ヘリコプター調査検討委員会」には「消防防災」に関する専門知識を有する委員は皆無である。

 

 以上のように、沖縄県が進めている消防防災ヘリコプターの導入には解決すべき課題、検討すべき問題を市町村長や議会、消防に対して公平に公開しているとは言えず、「本島周辺をカバーできる」「まず1機導入し、2機目を検討する」「民間運航体制」へと議論を誘導しようとしている。

 

 沖縄県民の生命を守るため、特に、離島においては防災力強化、都市部においては、高層ビル火災、北部では山岳救助にも威力を発揮でき、臓器移植の臓器搬送や県民の命が守れるような消防防災ヘリコプターの導入が必要がある。

 そのためには、「沖縄県全域をカバーできるできるだけ大きな機体」を「1機目から導入」し、「自主運航あるいは多くの操縦士の確保ができる運航会社への委託」を考えるべきなのである。

 

https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/bosai/bousaiheri.html